捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
タウンハウス

8月末の国王陛下主催の狩猟会まで、あと2週間。
社交シーズンの終わりであり、狩猟が解禁される狩猟シーズンの始まり。

貴族にとって狩猟はスポーツであり、娯楽であり、そして武芸の腕を磨く絶好の機会だ。

貴族の領地での本宅(カントリーハウス)とは対になるのが、王都に持つ別宅(タウンハウス)。社交シーズンはここが貴族の活動の本拠地となる。

ちなみに、エストアール男爵家にタウンハウスはない。いつも当主や子息が騎士に叙任されるからだし、女性は領地からまず出なかった。

というわけで……わたしは今、タウンハウスにいます。なぜかアスター王子の。

「あのー…アスター殿下、なぜ、ぼくが殿下のタウンハウスにいるんでしょう?」
「宿舎だとドレスの仮縫いができないだろう?」
「それならばお店に行けば……」
「今、アンジェラの店は繁忙期だぞ?常に客が入れ代わり立ち代わり…アンジェラが直接デザインしたドレスの仮縫いだ。夜になっても来ると言ってたんだ。仕方ないだろう」
「………わかりました……」

アスター王子の屁理屈には、黙るしかない。
国内屈指のデザイナーが、わたしのために貴重な時間を割いてくださったんだ。とても断れない。

「でも、泊まる必要はありませんよね?仮縫いが終わったら、ぼくは宿舎に帰ります」
「待て。おまえの父様と母様も招待してある。それでも帰るのか?」

アスター王子の言葉が、とっさには信じられない。


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