「仕事に行きたくない」と婚約者が言うので
「ヘラルダ。僕、騎士団の仕事に行きたくないんだ。どうしたらいいかな?」
 ヘラルダがマンフレットの前に立ったとき、マンフレットはすぐさまヘラルダに抱き着いた。ちょうど彼の顔は、ヘラルダのお腹に埋められるような高さにある。ということは、すぐさま彼女のお腹に顔を埋めてしまった、ということ。

「マンフレット様。仕事にはいきましょうね。皆、マンフレット様のことをお待ちしておりますよ」
 ヘラルダは、マンフレットの頭を優しく撫でる。彼を励ますかのように。

「そんなことない。どうせ僕は味噌っかすの第三王子だし」
 味噌っかす。ここから東にある国では、味噌と呼ばれる調味料があるらしい。そして、その味噌をすったときに出るかすのことを味噌っかすと呼ぶ。つまり価値が無いものの喩えとして使われる言葉。
 味噌っかすの第三王子マンフレット。それがこの婚約者であるマンフレットの不名誉なる二つ名。

「マンフレット様のことを必要とされている方も、いらっしゃるのですよ?」

「そうかな」
 ヘラルダのお腹に埋もれているマンフレットの頭が少しだけもぞもぞと動いた。

「はい。そうです。少なくとも私は、マンフレット様を必要としております。ですからお騎士団のお仕事へ行きましょう。マンフレット様の好きなチーズタルトを準備して、お帰りを待っておりますから」

「だったら、仕事に行かないで、チーズタルトを食べる」

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