お嬢様、今宵は私の腕の中で。

『俺がすずちゃんを守るから。すずちゃんがずっと笑顔でいられるように、絶対に会いにいくから』



涙で濡れた瞳に映った漆黒の髪。


涙のせいで前がよく見えなくて、乱暴に目を擦る。



『約束する。俺はすずちゃんを1人にしない。だからそれまで待っててほしい。迎えにいく、その日まで』



纏う雰囲気が誰かに似ている、とふいに思った。


顔はよく見えないのに、確かな強さも、包み込むような優しさも、わたしはすでに知っているような気がした。



『ほんとに……?約束してくれる?』



頷きとともに、ぽん、と頭に乗ったあたたかい手。



『桜が綺麗だね、すずちゃん』



繋がれた手のぬくもりが、まるで自分がそこにいるかのようにはっきりと伝わってくる。



『もし迎えにきてくれたら、また、わたしのこと捕まえてくれる……?』

『うん。約束する』


絡めた小指の感覚がだんだん遠のいて、意識が浮上していく感覚がする。


その刹那、わたしが何かを口にした。



『────捕まえて、離さないで、つきくん』



その言葉は、舞い上がった桜の花弁とともに、風に乗って消えていった。

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