お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「2人は昔っから仲良かったもんな。一緒に追いかけっこしたり、花畑ではしゃいだり」


わたしと九重の会話をじゃれあいだと捉えたらしい光月さんがクスリと笑いをこぼした。


たぶん、じゃれあいじゃないです、これ……。


「懐かしいわね。すずなんて、つきくんつきくんって追いかけてね」

「やめてよお姉ちゃん、恥ずかしい」


事実にしろ記憶がないため、暴露されるのはたまらない。


「ごめんごめん。ついはしゃぎすぎちゃった」


眩しい笑みは、やっぱりどこか懐かしい。

幼い頃にたくさん向けてもらった笑顔なのだろうと今なら思える。


「さあ、あんみつを食べて。食べ終えたら向かおう」


光月さんが、今度こそ、とわたしにあんみつを差し出した。


「九重、食べてもいい?」


問いかけると、にこにこと笑っていた九重は途端に顔を鋭くして光月さんを睨む。


「……お前、まさかとは思うが毒は入れてないだろうな」

「んなわけないだろ。店の人に失礼だろうが、アホ」


相変わらず光月さんに敵対心を向ける九重。

光月さんも先ほどまでの穏やかな口調ではなく少しだけ荒いけれど、それでもどこか嬉しそうだった。

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