お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「申し訳ありません。お嬢様の反応が面白くて、つい悪戯が過ぎました」
「ば、馬鹿にしてる……?」
「いいえ。滅相もございません」
と首を横に振りつつ、まだ口角が下がりきっていないようすの九重。
そのようすを見ながら、ため息をついて布団に入る。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「お、おやすみ」
目を閉じる刹那、整った顔がゆっくりと綻ぶのが視界に映った。
彫りが深く、目鼻立ちのはっきりした顔。
……あれ。
ふと既視感を覚え、瞼の裏で記憶を巡らす。
けれど、ふわりふわりとやってくる睡魔には抗えず、わたしは考えることを放棄して夢の世界へ意識を手放した。
「───本気ですよ、お嬢様」
窓から差し込む月明かりのなかで、妖艶な微笑を浮かべる執事が、そんなことを呟いていたとは知らずに。