お嬢様、今宵は私の腕の中で。

わたしも顔を上げて、その美貌を見つめる。


「お嬢様」


まっすぐにわたしを見つめた鈴月さんは、その薄い唇で小さな言葉を紡いだ。


「好きです」


たった4文字だけなのに、それだけでわたしの心は満たされる。

幸せで、涙が溢れそうになった。


「お嬢様、私と婚約していただけませんか」

「え」

「私はこの先ずっと、お嬢様のとなりにいたいです。私を貴女のとなりにおいてください」


海のように青い瞳の中に、わたしがいる。

ゆっくりと頷くと、その瞳に甘さが滲んだ。


「好きです、お嬢様。生涯、私の好きな人は貴女しかいません」


はらはらと桜の花びらが舞い落ちてきた。

その花びらは、吸い寄せられるように、伸ばしたわたしたちの手にのった。


「……綺麗」

「ええ、本当に」


目を細くする鈴月さんの頭に、ひらりと着地した花びら。

それを取ろうと伸ばした手を掴まれて引き寄せられる。


その刹那、唇に触れたぬくもりに、涙がこぼれ落ちた。

ゆっくりと唇を離した鈴月さんは、どこまでも深く、澄んだ青い瞳でわたしを見つめた。


「捕まえましたよ、お嬢様」


わたしを包み込む腕の力を強める。

わたしもその広い背中に手を回して、強く強く抱きしめた。


「────捕まえて、離さないで、鈴月さん」


桜が風にのってふわりと舞い上がる。

ふ、と目尻が緩んだのと同時に、また唇を落とされた。



晴れ渡る青空のした、大好きな桜の香りが鼻腔をつく。

幸せに包まれながらわたしは静かに目を閉じた。
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