お嬢様、今宵は私の腕の中で。

しまった……やられた……!


と思った時には、時すでに遅し。


あっというまに距離が詰められ、わたしの顔は目の前に広がる紅葉に負けないほど、真っ赤になってしまった。



「べ、別に、一応訂正しただけ」

「そうですか。それは失礼しました」



軽く頭を下げる九重は、頬をゆるめた。



「お嬢様に気に入ってもらえて嬉しいです。一緒に来た甲斐がありました」



よかった、と安堵の息を洩らす九重は、繋いだ手を少し上げる。



「お嬢様の手は、小さいですね」



まるで宝物を扱うように、優しく、丁寧に。


柔らかくもう片方の手で包み込まれる。



「……っ」



どっくん、と心臓がひときわ大きく跳ねる。



「九重の手が、大きいんじゃない?ほら、男の人だし」

「ちゃんと分かっているんですね……私が男だって」

「え?」

「なんでもありません。実はこの先に、紅葉池というところがあるんです。そこに行ってみませんか?」



さらっと話題を逸らされて、新たな提案をされる。



「紅葉池?」

「はい。水面が紅葉を反射して、ものすごく綺麗に映るそうですよ」

「行きたい!」

「ええ。参りましょう」



手を繋いだまま、再び歩きだす。


トクン、トクンと甘く奏でられる鼓動は、鳴り止むことを知らない。
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