私の彼氏は幽霊になった。

夢か現実か



「な...んで。俺のこと見えるの...?」





信じられないことが起きている。


この世を去ったはずの優斗が、目の前にいる。



「どういうこと...?優斗だよね? 本当に?」

「うん...なにこれどういうことだ? なんで!?...いやそれは後にしよう」



急に落ち着きを取り戻した優斗が、両腕を広げる。





「夕夏、会いたかった」


「っ...私も」




つい勢いよく飛びついてしまったけど、しっかり受け止めてくれる変わらない温もり。


華奢なのに意外とがっちりしてるところも好きだったんだよな。


さっきまで感じていた薬品の香りはもう分からない。優斗の香りで埋め尽くされてるから。


思いきり息を吸い込む。


陽だまりのような香り。安心するから好きだった。



「ちょっと息吸いこむ音聞こえてるよ。...恥ずかしい」

「いいの。久しぶりなんだから」










どれくらい時間が経ったのか分からない。


ここが学校ということを思い出して我に返った。


でも身体を離してみても、変わらず優斗は目の前にいる。



「ねえどうしたの。これは夢?」

「確かに夢みたいだけど、幽霊は基本寝ないからな...」



その言葉に思わずハッとする。



「そうだよ待って...優斗は、一週間前に...」

「うん...事故で俺は死んだ」



優斗が亡くなったのは間違いない。お葬式で顔を見せてもらったし、あれは確実に優斗だった。



「信じられない話なんだけど、俺は幽霊になったらしい。今日気づいたらここにいたんだ。それで...夕夏を見つけた」

「嘘...幽霊って見えないんじゃないの」

「いや、俺だってそうだと思ってたよ。だからめっちゃ驚いたんだ。」



「「.........................」」



お互い状況に混乱してるのが分かりやすい沈黙。


「「.........ブッ」」



そして吹き出しちゃうのも、いつも通り。



「ふふ。信じられないことしか起きてないけど、まさかまた優斗と話せて、しかも触れられるなんて」



優斗の頬を撫でると、しっかり温度がある。



まるで、生きてるみたいに。



「俺も嬉しい。...急にいなくなってごめん。謝りたかったし心配だった」

「ふふ、...優斗のせいじゃないでしょ」





結局授業開始の5分前まで話してしまい、先生が帰ってくる前に慌てて帰宅。


優斗と一緒に。








「凄い、優斗と歩いてる...信じられない」

「俺も」

「あー夢みたい!」

「ねえ...あんまり話すと怪しまれるよ。周りには多分俺のこと見えてないからね?」



その言葉にふと周囲を見ると、チラチラ通行人に見られてた。



「嘘...本当に見えてないのかな」

「そうだよ。幽霊だもん」



そう言ってお化けのジェスチャーをする。


こんな可愛いお化けがいてたまるか。








「おおー久々の夕夏の家だ」

「ふふ。入ってー」



「あ、ちょっと待って。俺試したいことがある」



そう言って玄関の前に戻っていく。



「え、なになに?」

「ドア閉めてみて」



まさか...と思いつつ、言われたとおりにドアを閉める。




スウッ



そして次の瞬間、玄関の前にいたはずの優斗が、なぜか目の前にいた。


....キラキラした笑顔で。



「おおおお!! まじですり抜けられた!!」

「....はいはい、一応靴は脱いでね」



後ろから「反応うすー...」なんてすねた声が聞こえてくるけど、無視して洗面所へ。






パシャパシャ、水の音が個室に響く。


顔を洗って鏡を見ると、少しマシになった。



あんな顔見せられないから。


温度があって触れられる。会話もできる。


だから、なんか勘違いしちゃってたんだ。優斗とまた今まで通り過ごせるんじゃないかって。


でもさっきの生身の人間ならあり得ない現象を見て、嫌でも実感してしまったんだ。




優斗はもう死んでしまったということを。









その後は、1週間で溜まりにたまった色々な話をした。


まだ両親が帰ってきてなかったからリビングで。


その時間で試して分かったことは、本人が触れたいと思えば物でも人でも触れられるということ。


でも食べ物は流石に食べられないみたい。





なんだか本当に、優斗が戻ってきたみたいだ。


ねぇ神様。これは都合のいい夢でしょうか。


それとも、あの事故にあったのは別人で優斗は生きていたとか。奇跡的に蘇ったとか。


....ないない。それこそ都合の良すぎる夢だ。






そういえば、優斗はなんで戻ってきたんだろう。



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