龍神様の贄乙女
(1)十年に一度
 山奥にある貧しいその里では、十年に一度、新月の頃に初潮を迎えた女の子を山奥の(ほこら)の龍神様へ、生贄(いけにえ)として捧げる習わしがある。

 龍神の姿を見た里人はいないが、その祠に(まつ)られた女の子たちが里へ戻って来たのを見た者もまたいない。

 龍神の花嫁として異界に連れて行かれたのだと言う者もあれば、龍神にその名の通り肉の(にえ)として喰らわれてしまったんだと(おそ)れる者もいた。

 だが、真相は全て闇の中――。

 贄として選ばれた少女たちが戻ってこないのだから、本当のことを知る者は誰一人いない――。


***


 新月の頃、初潮を迎えてしまったのが運の尽きだったのだろう。

 今年十二歳になったばかりの山女(やまめ)は、幼い頃に両親を流行り病で亡くし、以来里長(さとおさ)の家の片隅で穀潰(ごくつぶ)しの厄介者だと虐げられて育った少女だ。

 いつもボロボロの着物を着せられてぱっと見は小汚い印象だけれど、よく見ればほんの少し目尻が下がった黒目がちの大きな目は、くっきり二重の美しい顔立ちで。

 今はカサカサに荒れている唇も、月をひっくり返したような仰月型(ぎょうげつがた)で、キュッと上がった口角がいつも笑顔を浮かべているように見えてとても愛らしかった。

 夜の闇を写し取ったように深く濃い色をした黒髪は、しかしこの歳の子にしては珍しく、幼い印象のおかっぱ(かむろ)
 作物の実りも少ない山奥のこの里では髪の毛も貴重な財源として商われたため、山女の長かった髪も数ヶ月前里長の指示で切り取られ、売り払われてしまったのだ。
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