【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。

閑話 欲と焦燥

 聖良を寮まで送り届けた俺は事後処理のためデパートの方へと戻っていた。

 だが、途中で車を路肩に停車する。

 冷静さを保っていられなくなったからだ。


 胸の内から湧き上がってくる黒い感情を吐き出すように、「クソッ!」とハンドルに拳を叩きつけた。

 脳裏に浮かぶのはひたすら謝ってくる聖良の泣き顔。

 俺を選ばず、岸なんていうお尋ね者を選んだことを申し訳なく思っているような眼差し。


 だが、そこに後悔はなく彼女本来の強さも垣間見えた。

 選んでしまったんだ。
 揺るがないほどの想いを誰に向けるのかを……彼女は決めてしまったんだと気づいた。

 気づいて、しまった。


「クソッ! だから会って欲しくなかったんだ!」

 また、悪態をつく。

 だが声に出さずにはいられない。

 煮えたぎるようなこの激情を少しでも吐き出してしまわないと……。
 でないと、俺は何をするか自分でも分からなかった。


 嫌な予感はしていたんだ。

 あれほど酷いことしかされていない相手なのに、それでも聖良は岸に会おうとしていた。

 岸の顔面を殴って気持ちをハッキリさせるためだなんて言っていたが、会おうとしている時点で惹かれていたんじゃないのか?

 その可能性がわずかにでもあると思ったから、会わないでくれと言ったのに……。


 会ってしまったのは仕方ない部分もあるだろう。
 彼女は常に狙われていたのだから。

 だが、自ら血を吸わせたのは……。
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