自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「今度、寝ているお前に色々質問してみようと思う。お前なら麻酔なしで自白させられる」

「やめてください、真顔で。死んじゃうって言いましたよね。っていうか麻酔で自白するもんなんですか?」

「昔は自白に麻酔が使用されていた」
「嘘」
「ホントだ」

「『今度、寝ているお前に』って今度、また一緒に寝るつもりですか? 絶対あり得ないです」

「世の中に絶対はない。というか、お前が俺を離さなかった」
 
「それと」ってサンドウィッチを持ちながら隼人院長が話を続ける。

「既成事実は冗談だが、ベッドに寝かせたら俺にしがみついたまま離さなかったのは事実だ」

「私のあだ名コアラだったんです」 
「誰に抱きついていたんだ?」
 目力が強くなってキリッと見つめてくる。

「よちよち歩きのころです」
 脱力したように「ふぅん」だって。

「お前の馬鹿力をようやく引きはがしたら、引きはがしが暑かったようで暑い暑いと脱ぎ出した。見ていられなくて顔をそむけてシーツをかけた」
 
 品格がない女は嫌いだって顔に書いてあるような嫌悪感丸出しの表情を浮かべている。

「す、すみません。お目汚し失礼しました」
 なんて恥ずかしい大失態をしてしまったの、自分バカすぎる。

「普段は鈍くさいのにシーツをかけた俺の腕を素早く取り、自分の腕を絡みつけてきて」
「それ......か......ら?」
 耳を覆いたくなるようなバカさ加減。

「ベッドに引きずり込まれた。ワニに川へ引きずり込まれる水牛のように」
「謝るしかないです、本当にすみませんでした」

「素っ裸でコアラみたいに手足を絡みつけて、俺に抱きついたままで一晩中だ。そして、一度も目を覚ますことなく朝を迎えた」

「見ました?」
「見ない、感触だけだ」
「手のひらや体中に残っています?」
「さあ?」
 これは残っているな。何事もなかったようにサンドウィッチを美味しそうに頬張っている。 

「あとは、そう体温だ、お前は温かい」
「隼人院長は、あの、ん、私の体温を肌で直接感じたんですか?」
「着てた」
「良かった」
「下だけ」 
「上は?」 
「いつもは全裸、習慣なので。昨夜はせめて下だけはと履いた」

「つまり、私は上半身裸の隼人院長をベッドに引きずり込んで、一晩中自由を奪っていたってことですか」

 朝から男の人の部屋で、なにをしてなにを言っているんだ、私は。

「ここに来た理由を説明する」
 そう前置きして昨夜の出来事を説明してくれた。
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