甘い恋をおしえて


「無理です」
「え?」

絞り出すように佑貴は言った。

「千紘叔母さん、これ以上は無理でしょう」
「なにを言いだすの?」
「離婚に向けて、話を進めてください」
「ええ!」

自分としては甥に発破をかけたつもりだったのか、佑貴の反応が真逆になってしまったので千紘は慌てていた。

「彼女の望むだけの慰謝料は払います。すぐにでも莉帆を宮川家から自由にしてください」


「あなた、それでいいの?」
「両家のしがらみを莉帆ひとりの犠牲の上に終わらせるなんて、できません」

佑貴の決意を聞いた千紘はもうなにも言わなかった。


***


協議離婚はあっさりと決着をみた。
どちらもなにかを要求することはいっさいなかった。
具体的な話は全て弁護士に任され、ふたりが直接会うことすらなかった。

三年の結婚生活は、わずか数日の協議で終止符を打たれた。

莉帆も佑貴に多くを望まないし、罪は許されないと思っている佑貴からも言葉はなかった。
どちらもすれ違った気持ちのままだったから思いを告げないまま、ふたりは別々の道を生きることにしたのだ。





< 61 / 114 >

この作品をシェア

pagetop