甘い恋をおしえて


莉帆は、九州の夏の暑さや台風の風雨にも慣れてきた。
初めは戸惑ったが、さすがに五年以上もここで生活していると夏はマリンスポーツ冬は阿蘇近くでは雪が積もってスキーが楽しめるという恵まれた自然が大好きになっていた。

宮崎に来てからは忙しくて、以前ほど身だしなみに気を使っていられない。
きめ細かく真っ白だった莉帆の肌は健康的に日焼けしていた。
その肌に似合うように、ショートボブにした髪の毛はアッシュブラウンに染めている。
三十を過ぎた今では、五年前の二十代の頃とは別人のような雰囲気に変わっている。
以前の莉帆を知っている人でも、すれ違ったくらいではわからないかもしれない。

そろそろ夏休みが近い七月中旬の夕刻。
莉帆が食堂のある本館から出て芝生広場を歩いていたら、正面から背の高い男性が走ってくるのが見えた。

「高梨さん!」
「あ、監督。お疲れ様です」

サッカー部の監督、井村譲二だ。
短めの髪に、浅黒い肌。三十代半ばとはいえ、サッカーで鍛えた体は若々しい。
現役を引退して時間が経つのに、整った甘い顔立ちもあって女子学生からの人気は絶大だ。

「仕事終わったんですね。丁度いいところで会えました」
「なにかありましたか? 夏のメニューに変更点でも?」

先日、夏休みの合宿用メニューを提出したところだった。

「いえ、今度の遠征のことでお願いがあったんです」
「遠征ですか?」

夏休みを利用して、八月上旬から八月中旬にかけては毎年サッカー部の合宿時期だ。
人気の部活動だけあって、上位のAチームから、B,Cチームと選手は実力で分けられている。
今年はAチームだけは練習試合を組み込んで関東地方に長期遠征すると聞いていたがその話だろう。

「高梨さんは東京のご出身ですよね」
「はい」
「夏休み、あちらに帰省されるのですか?」

「はい。私の兄姉から帰って来いって言われているので」



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