甘い恋をおしえて


「お待たせしました」

譲二は莉帆の隣に並ぶように立つと、外国人たちと流ちょうなドイツ語で話し始めた。
莉帆にはよく意味がわからなかったが、譲二が説明してくれる。

彼らは、夏のオフシーズンにアジアツアーをしているドイツチームのスカウトマンや関係者のようだ。
宮川商事がスポンサーになって、日本のチームとの試合が国内数か所で組まれている。
譲二がドイツで所属していたチームだから、大学の教え子を推薦していた。
スカウトマンたちは今日の練習試合を見て、選手の実力を見極めたいらしい。

「うちの選手にも世界に羽ばたくチャンスがあるかなって思ったんだ」
「選ばれたらいいですね」

宮川商事がスポンサーなら、佑貴も関係者のひとりとしてここに来たのだろう。
譲二が熱心にドイツチームのスカウトマンと話し始めたとき、佑貴が莉帆の近くまで来た。

「井村監督と付き合っているのか?」

思いがけない佑貴の言葉に、莉帆は無言を貫いた。
離婚したかつての夫に答えなければいけない義務などないはずだ。

「あなたは再婚したの?」

莉帆は質問に質問を返す。佑貴もなにも答えなかった。
お互いに気にはなりながら、答えを言わない。
ふたりの間に白々とした空気が漂う。





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