大嫌いの先にあるもの
春音には何も言わないでおいた。その方がきっと楽しいだろうから。サーモンピンク色のドレスを着た春音を想像するだけでわくわくする。似合うだろうな。春音は色白だし、肌が綺麗だから。美香のネックレスもきっと春音を魅力的にしてくれるだろう。

パーティー当日は朝からよく晴れてた。相沢から横浜のホテルを出た所だと連絡をもらった。着飾った春音を想像してにやけてくる。

一足先に鎌倉の三田村会長の別荘についた。
招待客は300名程だと聞いてる。一階の応接間に行くと上機嫌な三田村会長が取り巻きに囲まれながら葉巻を加えてた。周囲の話から一人娘の婚約が無事にまとまった事がわかる。

「いやー黒須君、相変わらず男前だな」

三田村会長が上機嫌に僕の肩を叩きながら笑った。
穏やかな表情をしているが、目を見ればこの人が切れ者だという事がわかる。相手を威圧するような目力がある。この人を裏切ったらただでは済まないだろう。

「今日はよく来てくれた。楽しんでいってくれたまえ」
「招待ありがとうございます。あの、例の件は」
「大河内さんには後で会わせよう」
「ありがとうございます」
「黒須君の頼みならなんでも聞くさ。君は俺の資産を守ってくれたからな」
「自分の仕事をしたまでです」
「今日も頼むよ。君の目は確かだからね。おい」

三田村会長が秘書の方を向いた。秘書からタブレットを手渡される。

「金融のプロとして、どう思うか聞かせて欲しい」

三田村会長に言われ、タブレットを見ると、海外ファンドの資料が表示された。ざっと見る限り有益な物に思える。手堅い投資と言えるだろう。しかし、何か引っかかる。何だろう、この違和感は。数字が綺麗過ぎるというか、作為的な物を感じる。それにここにあるスイスの投資会社の名前を聞いた事がない。

「どうかね?」

三田村会長がこっちを見た。

「資料を見る限りは問題ないと思いますが何か引っかかります」

三田村会長の眼光が鋭くなる。

「何が引っかかるのかね?」

「まずこのファンドを売り出しているスイスの投資会社の名前を僕が聞いた事がない点です。そして第二に収益率に表示されている数字が綺麗過ぎます。一見問題のない投資のように思えますが、もう少し調べた方が良いのではないでしょうか」

三田村会長が豪快に笑い出した。

「さすが黒須君だ。ハッキリ怪しいと言ってくれる。君の言葉を聞いてスッキリしたよ」

こちらの答えに満足そうに三田村会長が何度も頷いた。
それから株の話になり、気づくと人だかりが出来てた。熱心に聞いてもらえてありがたいが、そろそろ春音が着く頃だ。

迎えに行かないと。

「それで、その投資だと利益率はどれぐらいになるんだね」

三田村会長が質問して来た。会長の質問には答えなければいけない。

「あの、連れが来る頃なので、迎えに行ってもらいたいのですが」
「ああ、ちょっと待ってくれ」

三田村会長が秘書に声をかけた。
僕は秘書の人に春音の特徴を話してお願いした。

「それで黒須君、話しの続きだが」

三田村会長に促される。簡単には解放されないな。
春音が怒って帰らなければいいが。
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