大嫌いの先にあるもの
「春音が僕の所に訪ねて来たからだよ」

信じられない。

そんな事あるはずない。
　
「嘘はついてないよ」

クスクスと余裕たっぷりに黒須が笑った。
そんな態度がやっぱり腹立たしい。

でも……。

言われてみれば昨夜は堪らない気持ちになって冷蔵庫の中にあった缶チューハイを三本飲んだ。

それから泣きながら黒須に電話した気がする。

で、【Blue＆Devil】にいるよって言われて、家を出たんだ。
バーでも沢山お酒を飲んで……。

「思い出した？」

鼻先がぶつかるぐらい近くに黒須の整った顔があった。

「ち、近い！」

突き飛ばそうとしたら腕を捕まれ強い力で抑え込まれた。
骨ばった長い指が手首をつかんでる。

手首が熱い。
ドキドキしてくる。すぐ近くで太鼓を叩いてるみたいに自分の鼓動の音が大きく鳴ってる。

「は、離して……」

声が思ったよりも弱く響いた。
動揺してるのがバレる。

視線を上げると、二重瞼のやや吊り上がった目が観察するようにじっとこっちを見てる。

そんな目で見ないで欲しい。
冷静でいられなくなるから。

一体何の罰ゲーム？

まさか、このままベッドに押し倒そうって言うんじゃ……。
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