大嫌いの先にあるもの
「美香が僕のオフィスに電話して来たのは新聞でジャニスの死を知ったからだと思うんだ。実は美香は亡くなる一週間前にジャニスのコンサートに行っているんだよ。そこで何かがあったはずなんだ」

さらに驚いたように焦げ茶色の瞳が大きく見開かれた。
春音の動揺が伝わってくる。

「美香ちゃんは偶々通りかかった強盗に殺されたんじゃないの?」

「強盗は偶々通りかかったのではなく、美香を追いかけていたんだと思う」

この3年、相沢と美香の事件を調べた結果、その結論にたどり着いた。

「どうして?」

「実は美香が亡くなった日、家に泥棒が入ってね。今思うと、特に美香の部屋が荒らされてた気がするんだ」

「それって、誰かが何かを探していたって事?」

「僕はそう考えている」

春音が苦しそうに息をついた。

「じゃあ、おばあちゃんが会ったFBIの人って強盗の仲間だったって事?美香ちゃんの遺品を探しに来ていたとしたら、その可能性あるよね?」

「僕も同じ事を考えた。そのFBIの人間は僕に愛人がいるように見せる為に写真まででっち上げたらしい。その写真を見て完全におばあちゃんは僕に裏切られたと思ったんだろうね。それこそ敵の思うツボだったが」

「どうしておばあちゃんと黒須の仲を裂くような事をしたの?」

「多分、その方が美香の遺した物を探しやすかったんだろう」

「美香ちゃんは何を持っていたの?」

「推測だが、美香はジャニスからコンサートの日に何かを預かったんだろう。それは誰かにとって表に出たらマズイものか、価値のあるもので、ジャニスは身の危険を感じて一旦、美香に預けたんだ」

「それで新聞でジャニスさんが亡くなった事を知って、美香ちゃんは命の危険を感じて、黒須に電話したって事?」

「そうだと思う。きっと僕に全てを打ち明けようとしていたんだ。だけど僕は電話に出られなかった。美香の電話に気づいて駆けつけた時には既に電話をもらってから2時間以上が経っていたんだ。その2時間が美香の生死を分けたかもしれない。強盗に見つかる前に僕と会えていたらきっと美香は生きていた」

後悔しかない。美香を助けられたかもしれないのに、僕はそのチャンスを逃して、愛する者を守れなかった。

「春音が前に言ってた事は、的外れじゃなかったんだよ。僕は美香を殺したも同然の事をしたんだよ」

「そんな事ないよ」

「あるよ」

「そんな事ない。これ以上、自分を責めないで」

次の瞬間、春音に抱きしめられた。
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