大嫌いの先にあるもの

お見合い

9月三週目の日曜日。今日はお父さんに頼まれたお見合いの日。

黒須には余計な心配をかけたくなかったので、お見合いは断ると言ったけど、そんな度胸はなく、お父さんと待ち合わせた銀座の高級ホテルまで来てしまった。

しかもおばあちゃんは今日の為にわざわざ近所の美容室を予約していて、気づいたら成人式で着た桜色の晴れ着姿になっていた。

頭もなんかかっちりとセットされて、大きな花飾りがついているし、メイクもしっかりとされてしまったから、顔も重たい感じがする。

まさかこんな重装備で銀座まで来る事になるとは……。
地下鉄に乗った時から、いろんな人の視線を感じるけど、大丈夫なんだろうか。何かおかしい感じになっていないだろうか。

美容室のおばちゃんは「お可愛いですよ」と、何度も言っていたけど、不安になる。

でも、今日は断られなきゃいけないから、逆に浮いているぐらいがいいのかな。

ホテルのロビーに行くと、灰色のスーツ姿のお父さんがもう来ていた。

「おっ、着物か。春音、気合入ってるな」
私の前に立つと、お父さんは頭から爪先までしっかりと見た。

「なんかおばあちゃんが気合入ってて、こんな姿にされちゃった」
「いいんじゃないか。可愛いぞ」
お父さんが嬉しそうに黒縁眼鏡の奥の瞳を細めた。

これって、似合ってるって事なのかな?
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