大嫌いの先にあるもの

エピローグ

日本に帰って来てから二週間が経ち、黒須の左肩の傷も治った日曜日、黒須に私と一緒に出かけたい所があると誘われた。

「春音、支度出来た?」

私の部屋にやって来た黒須を見て、胸が熱くなる。
チャコールグレーのスリーピース。

初めて会った時に黒須が来ていたスーツだった。

「日曜日なのにスーツ?」

込みあがる感情を飲み込んで、茶化すように言った。

「大事な人に会いに行くからね。春音もワンピースがいいかな。そうだ。この間買ったやつがいい」

黒須が私のクローゼットを開けて、桜色のワンピースを取り出した。

「春音、来て」

黒須に腕を捕まれ、姿見の前に連れて行かれた。
黒須が私の体にワンピースをあてる。

「かわいい。よく似合っている」

黒須が機嫌良さそうに笑みを浮かべた。

そのワンピースは先週、黒須と買い物に行った時に買った物だった。
Aラインの膝丈のワンピースで、黒須曰く、可愛らしさとエレガントさがあるデザインらしい。

「これ着るの?」
「うん」
「なんか勿体ない」
「せっかく買ったんだから着ないと」

どうしてもこのワンピースが黒須はいいらしい。かしこまった服装よりも、ジーンズにカットソーが良かったけど、大事な人に会いに行くと言われたので、黒須に合わせる事にした。
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