王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます

捜し人は下女

「それで?そのエリという下女は、何をやらかしたわけ?」
「知らないわよ。『レリア。あなた、ここでは古株でしょう?エリって人、知っているかしら?下女らしいんだけど、ここには下女はいませんからね。おそらく、侍女だと思うのよ』って、侍女長がきいてくるのよ。侍女長のところに話がいっているくらいだから、そのエリって人、よほど何かをしたかきいたか見たかしたのね」
「やだ、レリア。いまの言い方、侍女長にそっくりじゃない。侍女長を見たら、思い出し笑いしてしまうわ」

 もう一人の侍女は、お腹を抱えて笑いはじめた。

「ああ、可笑しい。だけどそのエリって人、ほんとうにここにいる人なの?ほんとうに下女だとしたら、どこかの貴族の屋敷で働いているのかもしれないわ」
「わたしもそう思うのよ。謎だらけだから、余計に興味がわくわよね」
「言えてるわ。だれか知っている人がいるかもしれない。わたしも、きいてみるわね」
「ええ、お願い……。ちょっと、なんですか?」

 歩く速度をゆるめたつもりだったけど、気がついたら足が止まっていた。

 レリアは、聞き耳を立てられたと思ったに違いない。難癖をつけてきた。

 まぁ、実際聞き耳を立てていたんだけど。

 もう一人の侍女も、平べったい顔に嫌悪感をにじませこちらを見ている。


「ちょっと、なんですか?」

 侍女長の物真似が得意らしい、レリアの真似をしてあげた。

「やめてください」

 彼女は、自分の物真似をされるのは嫌みたい。

 あっもしかして、わたしが下手くそだったからかしら?

「立ち聞きなんて、王太子妃殿下のされることではありませんよ」
「立ち聞きなんて、王太子妃殿下のされることではありませんよ」
「や、やめてくださいっ!」

 もう一度真似てやると、レリアは真っ赤になって怒りはじめた。

「そっくり」

 もう一人の侍女は、真っ赤な顔をして怒り狂っているレリアの横で大ウケている。

 なーんだ。似ているんじゃない。

 ちょっぴりうれしくなった。わたしにこんな物真似の才能があったなんて、意外だわ。

「そのままそっくり返してあげる。仕事もしないでぺらぺらおしゃべりするなんて、侍女のすることではないわ」

「ピシャッ」と音がするほどの勢いで言ってやった。

 心臓はバクバクしている。だけど、言いきった後に爽快感がおしよせてくるのを感じる。

「な……」

 かわいそうに。レリアは絶句している。その隣で、もう一人の侍女が口をあんぐり開けているのが笑える。

「王太子妃らしく読書をするから、これで失礼するわ。あなたたちも、ちゃんと仕事をしなさいよ」

 吐き捨てるように言ってから、彼女たちに背を向けた。そして、歩きはじめた。

「ちょっと、レリア。あの人っておとなしくって言いなりだから、虐め甲斐があるって言ってなかった?」
「しっ、きこえるでしょう」

 彼女たちのささやき声が背中にあたった。


 おあいにくさま。「おとなしくって言いなりだから、虐め甲斐がある」のは、以前のバージョンよ。

 いまのバージョンとは違うんだから。

 胸元の本を抱え直しながら、思わずにんまりと笑ってしまった。
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