王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます

レイの正体って?

 それにしても、王太子ってだれかに雰囲気が似ている気がするのは、きっと気のせいよね。

 なにせ、この国で会ったことのある男性なんて、両手の指の数より少ないんだから。似ている人がいたとしたら、すぐに思いつくわよね。

 
 その日は、さすがに人目のつく場所に行く気にはならなかった。

 わたしを捜しているのは、っていうか下女のエリを捜しているのは、わたしの夫なわけよね。それとは別に、婚儀の翌日にバラ園で黒ずくめの男の一人をぶっ飛ばした何者か、つまりわたしを捜しているのも夫なわけよね。

 詳しい事情はわからないけれど、彼らがわたしのことを物騒な理由で捜しているということくらいはわかる。

 彼らはまだ気がついてはいないけれど、どちらもわたしだと気がつくのも時間の問題かもしれない。

 なるべく目立たないようにしなければ。

 というわけで、図書室から自室に戻ってそこにこもっている。

 本は持って来た。まだ返していない本もある。だから、退屈することはない。

 だけど、お腹がすいたら厨房に行って食料を調達したいし、洗濯だってしたい。

 それを言うなら、散歩だってしたい。宮殿内の淀んだ空気より、森の中を歩いて新鮮な空気が吸いたい。
 バラやその他もろもろの花の香りを堪能したい。

 やっぱり、ずっとここに閉じこもっているわけにはいかないわよね。

 ダメね。以前は、本さえあれば割り当てられた部屋でじっとしていても苦痛じゃなかった。かえってその方がよかった。
 それなのに、いったん自由に行動するようになると、今度は部屋にこもっていることがつらくなってしまう。

 それはともかく、いったいこれからどうなるの?

 いつバレてしまうのかしら?どのくらい経てば、つきとめられるのかしら?

 もしかしたら、わたしがぶっ飛ばした男が記憶を取り戻すかもしれない。そうしたら、わたしの姿恰好を伝えられたら、すぐにでもバレてしまう。

 なにせ黒髪の黒い瞳って、このベシエール王国も含めてこの辺りの国々にはそうはいないのだから。

 でも、ちょっと待って……。

 まず、あの黒ずくめの連中と王太子はどういう関係なの。というよりかは、どうして王太子は連中にレイを襲わせたの?
 それから、レイしか知らない「下女のエリ」のことを、どうして王太子は知っているの?

 まぁ「下女のエリ」については、王太子だけでなく王宮中の人が知っているみたいだけど。

 そういえば、図書室で王太子といっしょにいた「頭てっぺん禿げ」の男が、「さる人物」がどうのこうのって言っていたっけ?

 ということは、レイ本人がその「さる人物」に話し、その「さる人物」が「頭てっぺん禿げ」に伝えたってことよね。

 その「さる人物」はレイと親しいのに、じつは王太子の味方というか飼われているというか、そんな感じなのかしら?

 そもそもレイって?

 彼って何者なわけ?

 結局、行き着く先はそこよね。

 彼が何者か、という疑問にぶち当たってしまう。

 寝台の上で寝っ転がり、そんなことをかんがえている内に眠ってしまっていた。

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