大聖女はもう辞めました!13度目の人生は立派な悪女を目指します~ループするたび生贄になるので、今世は竜騎士王子とちびドラゴンと自由を満喫します~

11.ティア。私の聖女。


 お茶会の時間である。
 ティアはワンピースに着替え、席に着いていた。テーブルには色とりどりのお菓子が並び、子供たちはキャイキャイと騒いでいる。
 クレスと目が合わぬよう、俯いていた。

「では、今日のお茶係はティアに頼みましょう」

 司祭が言う。

「え!? 私?」

 ティアは驚く。
 お茶係は、この一ヶ月間良い子で過ごした子供に与えられる名誉だからだ。
 謹慎中だったティアは自分が選ばれることはないと思っていた。

「ティアねーだ!」
「いいなぁ。ティアお姉ちゃん。私もクレス様にお茶をあげたかったー!」

 子供たちの声に送られながら、ティアはポットの置かれたワゴンまで行く。
 そしてポットを持ち上げた。

 ん? これってなんか嫌な感じがする……。

 不安定な魔力がポットの中に渦巻いている。

 でも、乙女の楽園でそんなことあり得ないわよね?

 確認するようにティアは軽くポットを揺らしてみた。
 やはり違和感がある。

 ティアは思わず司祭を見た。
 司祭はスッと目を逸らす。
 クレスを見てみると、ただただ普通に微笑んでいる。

 なにか変。まさか、司祭様がなにか入れたの? このまま注いで歩いたら、このお茶を子供たちも飲むことになるのに?
 どうしよう、中に変なものが入ってるって言ったほうが良いのかな?
 でも、そんなことがクレス様に知られたら、司祭様はどうなるのかしら?
 乙女の楽園は? 子供たちは?

 ティアはグルグルと考える。

「どうしたのですか? ティア」

 クレスに優しく問われ、ティアは動揺する。

「あ、あ、なんでも、ありません……」
「なら、早くお茶を注いでください」

 クレスにせかされ、ティアは焦る。

 どうしよう。どうしたら良いの? わからない! わからないから!!

 ティアは持っていたポットに神聖力を注いだ。
 ホンワリと薄いピンク色の光りがポットを包み込む。
 こっそりと処理しようと思っていたのに、思ったより神聖力が強く出てしまった。

 わぁ! やってしまった! 紅蓮の希望と同化してから神聖力が強まったのを忘れてた!

 ティアは焦るがどうにもならない。

「ティアねーのおてて、ひかった!」
「聖女様みたい!」

 子供たちは大興奮だ。

「そんなはずないよ、勘違いだよ」

 司祭は驚き言葉を失う。
 聖女の奇跡を目の当たりにして、驚いたのだ。

 やっぱり、ティアは聖女として覚醒している!! しかも、魔法陣も詠唱も使わずにこれだけのことが出来るなんて……大聖女になる資質さえある! 見つけた! 私が見つけた! 私の宝石!

 クレスは確信した。 

「ティア……」

 クレスはティアに呼びかけた。
 その紫の瞳は、熱に浮かされたように潤んでいる。
 
 その色っぽい視線にティアは思わずギョッとする。

「は、はい……。クレス様……」
「まずは私にお茶を注いでください」
「……はい」

 ティアはクレスのカップにお茶を注ぎ、耳打ちする。
 浄化したとは言え不安だった。出来たら飲んでほしくない。

「あの、もしかしたら、美味しくないかも……」
「ティアが浄化してくださいましたね」
「っ気がついて……」

 クレスは穏やかに笑い、カップのお茶をクイと飲んだ。

「ああ、甘い。大丈夫ですよ、ティア。あなたの浄化は成功しました。独学でここまでとは……」

 そういうと、ティアのピンクの髪をひとすくい掴(つか)み毛先にキスをした。
 部屋中が響(どよ)めく。子供たちが黄色い歓声を上げる。

「!? !? !?」

 ティアが動転して目を白黒させると、クレスは愛おしいものでも見るような目をした。

「ティア、あなたは私の命の恩人です」
「い、いえ、そんな。命がどうとか、そんなものはいってなかったと思います!」
「そこまでわかるのですね。素晴らしい」

 クレスはうっとりとしてティアを見つめた。
 ティアはしくじったと思い目を逸らす。
 
「ティア。私の聖女。早く私のもとにこられるよう、最善の努力をしましょう。私が、王国最強の聖女にしてあげます」

 クレスの言葉に、ティアはブンブンと手を振った。

「そんな、無理です。私、無理です!」

 だって、私はドラゴンの相棒になった悪女なんですから!!

 ティアは思うが、さすがにこの状況で言えるわけもなかった。
 ティアは助けを求めて司祭を見た。すると、司祭は冷たい顔でティアを見つめていた。
 突き放すような表情にティアはゾッとする。

 司祭様……怒ってる……。

 ティアは慌てて目を逸らした。
 
 周囲の子供たちはパチパチと拍手をする。

「ティアねー、すごい!」
「ティア姉ちゃん、さすがだね!」

 ティアは孤立無援だった。
 がっくりと肩を落とし、愛想笑いを浮かべた。





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