崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート（ただし個人の感想です）

　「おい、起きろ！」
　大声で怒鳴られ、腕を強く掴まれてたたき起された。
　「え、誰？」
　「それはこっちが言いたい。他人の家で何をしているんだ」
　弓弦をたたき起したのは高級なビジネススーツを着た背の高い男性。フレームのないメガネをかけ、短く整えられた髪が清潔感に溢れている。
　「それは俺のか？」
　「え？」
　訳がわからずボーッとしていると、男は手を伸ばして彼女の着ているバスローブを引っ張った。前が開かれブラジャーが見えそうになる。
　「新手の強盗か？　留守を狙って入り込んで家の物を物色でもしたのか？」
　「ち、ちが・・」
　強盗犯と間違われていることを知り、弓弦は怖くなった。目の前の男性はここの家主のような発言をしている。
　でも、彼女が見た表札は・・
　「Ｙ　ＯＵＭＩ」確かローマ字でそう書いてあった。それに自分をここに連れてきてくれた女性も、この家の家主は「はるか」だと言っていた。彼女の双子のきょうだいだと言っていたけど、彼は旦那さんだろうか。
　「こい！　何を盗んだのか確かめる」
　「え、あの」
　男は彼女の腕をきつく掴んだまま引きずって行く。足がもつれそうになりながら、彼女がいたリビングから隣の部屋に向かった。
　弓弦を引きずったまま入ったのは寝室。間接照明が室内を照らす窓のないその部屋には、大きなキングサイズのベッドが置かれていて、黒とグレーに統一され、全体がシックな感じだ。他人の寝室。
　男はそのままウォークインクローゼットに向かう。片側に紺や黒、グレーの色別に掛けられたスーツが並び、反対側はプライベートで着る物なのか、トレーナーやパーカーが掛かっている。男は中央の棚の引き出しを開け、そこにある物を確認する。
　そこにはいかにも高級な腕時計がずらりと並んでいた。光っているのはダイヤか何かだろうか。
　「揃っているな」
　それから隣の引き出しを開ける。カフスボタンやネクタイピンが並べられている。そこにもエメラルドやサファイヤといった宝石が使われている。
　何も取られていないことを確認すると、男は何か考え事をして、何か思い当たったのか馬鹿にしたように彼女を見た。
　「間抜けだな」
　「え？」
　「大方、俺が今日は帰ってこないことを知っていて、先にここでの滞在を満喫してから、出るときに持って帰ろうとでも思ったか」
　どうしても彼は彼女を強盗に仕立てあげたいみたいだ。
　「だから、ち、違います」
　「何が違う、人の物を勝手に着て、さっさと脱ぐんだ」
　「あ！」
　男はバスローブの前を掴んで思いきり引っ張った。
　そんな力で引っ張られて、次に投げ飛ばされた弓弦は床に勢いよく転倒した。