年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「えっと……長門さんが……私に?」
『そうだ。悪いな突然。通常の撮影とは違うから少数でやりたいらしい。詳細はまたメールでいいか?』
「あ、は、はい。お願いします」
『司にもOKの返事をしておく』

 ほっとしたような希海さんの柔らかい声が電話の向こうから聞こえるが、私はすでに緊張で体が固くなる。
 私が無言のままでいると、少し空気が揺らぐような気配がして希海さんは続けた。

『色々心配なのは分かる。それに、司の事は睦月さんにアドバイスを貰えばいい。あの人ならなんでも知ってるはずだ』

 そう言っている希海さんの声は少し笑っているように聞こえる。

「えっ! でも!」

 私は戸惑ってそこで口籠る。どうしよう……私、聞こうにも睦月さんの連絡先は仕事用のメールアドレスしか知らない。それを使ってそんな個人的な事を聞いてもいいのか。

『睦月さんに……綿貫の連絡先教えてもいいか? 聞いてないんだろう?』

 さすがに、伊達に何年も一緒に仕事をしてきた仲じゃない。希海さんには見透かされていた。

「はい。……でも、迷惑じゃないですか?」
『そんな事はないだろう。むしろ……』

 そこまで希海さんが言ったところで、希海さんを呼ぶ声が電話の向こうで聞こえた。たぶん響君だ。

『悪い。メシが出来たみたいだ。じゃあ頼む』

私はそれに「はい」とだけ言って電話を切った。
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