年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 映画を見終わってから、どこかにご飯でも食べに行こうかって切り出した俺に、さっちゃんは「それなら……いただきに行きませんか?」と答えた。
 俺は二つ返事でその提案に乗り、せっかくだから電車で行ってお酒飲もうよ、と返したのだ。

「この路線……懐かしいです」
「そうなの?」

 俺に視線を向けてさっちゃんは頷く。

「専門学校がこの路線で、2年間乗ってました。あの頃をちょっと思い出します」
「へ~。そうなんだね。その頃のさっちゃんにも会ってみたかったなぁ。きっと可愛かったんだろうな」

 つい心の声をそのままに出してしまうと、さっちゃんはまた外に視線を戻した。

「……またそうやって揶揄うんですね」

 扉のガラスに映ったさっちゃんの表情は、少しだけ暗く見えた。

 3回目になる暖簾を潜り、俺が先に店に入ると、店主はいつものようにカウンターの向こうから「らっしゃい!」と威勢の良い声を出す。

「お、兄さん。また来てくれたのか」
「こんばんは。今日は2人、ですけど」

 俺の台詞に合わせるようにさっちゃんが顔を出すと、店主は少し目を開く。

「おぉ咲月! なんだ、待ち合わせか?」

 それに反応したように、カウンター前の男性が振り返って「咲月⁈」と声を上げる。その人を見て、さっちゃんは見たこともないくらい驚いている。

「なっ! 何でいるの⁈」

そう言って。
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