年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 彼女になった途端に、こんなに触れてしまっていいのかなぁ? なんて思うけど、それを止められるわけなんかない。

 唇に触れるか触れないかくらいの距離まで自分の唇を近づけて、俺はさっちゃんに尋ねる。

「明日も……会ってくれる?」

 瞳を伏せたまま俺の腕をギュッと掴むと、さっちゃんは小さく「はい……」と返事をした。

「ありがと。さっちゃんさえ良ければ、俺は毎日でも会いたいからね?」

 息を吐き出すようにそう囁くと、唇に振動が伝わるのか、さっちゃんは擽ったそうに顔を顰めている。俺は軽くだけその背中を引き寄せて、啄むように何度も軽く唇に触れた。

 人の家の前で何してんだか

 自分の行動に内心突っ込みながら、唇を離して顔を上げた。

「じゃあね。おやすみ」

 そう言ってさっちゃんの頭を撫でる。さっちゃんは、はにかみながらそれに答える。

「おやすみなさい。また……明日」
「うん。明日」

 笑顔でそう言って、俺は背を向けた。
 後ろ髪を引かれながら、エレベーターに向かう。顔見てたら、俺の方が離れられなくなりそうだ。

 さっちゃん。早く君の隣でおやすみって言って、目が覚めたらおはようって言いたいよ

 そんなことを思いながらエレベーターに乗り込み、俺は誰も待っていない部屋への帰路についた。
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