年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「かんちゃん⁈」

 さっちゃんは激しい勢いのかんちゃんを慌てて抱き上げている。

 さっきまで鳴いてなかったのに、俺を見た途端これか……

 引き攣りながら皆を車に乗るよう促すと、もちろん真琴君と奈々美ちゃんは後部座席に向かい、さっちゃんはかんちゃんを抱えたまま助手席に向かった。
 そして俺が車に乗り込むと、隣でさっちゃんに抱えられていたかんちゃんは、俺に向かってけたたましく吠え始めたのだ。

「ちょっと……場所移動した方がよさそうだね」

 車中に響くその声を聞きながら言うと、さっちゃんは落ち込んだように「すみません……」と言って、後ろの真琴君と席を代わった。

 かんちゃんは何とか落ち着いてくれて、俺は車を走らせる。
 うしろでは楽しそうな女子トーク。もちろん、かんちゃんは機嫌良さそうに車の外を眺めていた。

 ここに着いてからも、俺の姿を見るたびに「何でいるんだ!」と言わんばかりに吠えられる。
 正直、俺ってこんなに動物に嫌われるタイプだったんだろうかと落ち込みそうになったが、他のお客さんが連れている犬に尻尾を振って近寄って来られて、やっぱりね、となってしまった。

 大事なさっちゃん(おかあさん)を取られたくないよねぇ……と。
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