年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 家に帰るとかんちゃんのご飯を用意して、凄い勢いで食べ始めたのを眺めながら冷蔵庫に向かう。さっちゃんはわざわざ俺のために夕食を用意してくれていて、それを取り出すとレンジで温め、ご飯をよそった。

「いただきます!」

 一人の声が虚しく響くダイニングテーブル。このところ一人で夜ご飯を食べるなんて記憶になくて、気がつけばいつも目の前にさっちゃんがいてくれていた。と言うか、すっかりここがさっちゃんの家になりつつある。物置と化してるさっちゃんの家の家賃を払わせているのは申し訳ないと思いつつ、元が一人暮らし前提の1LDK。さっちゃんに『ここに引っ越ししておいでよ』とは言えていない。

「俺が引越ししようかな……」

 さっちゃんの作ってくれたサーモンのムニエルをつつきながら俺は独り言ちる。

 親御さんに挨拶もしてないのに同棲に持ち込むのはどうかとも思ったけど、結婚するならどうせ新居が必要だ。

「よし!」

 善は急げだ。急いでご飯を食べ終えて洗い物を済ますと、スマホを手にした。

「あ、希海? ごめん。変な時間に。今いい?」

 数回のコール音が途切れると、相手を確かめることなく話出す。

『はい、大丈夫です』

 いつもの淡々とした声はするが、向こう側から物音はせず、家にいるのかな? と話を続けた。

「実はさ、引越し考えてて。この家探してくれたの希海だし、どっかいいとこないかな?」

 明るくそう言うと、なぜかしばらく反応はない。

 ……? どうしたんだろう?

 そう思っているとようやく希海の声が聞こえてきた。

『……そのマンション、空きでますよ。3LDKの部屋ですが』
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