年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「明日、さっちゃんを連れてそっちへ行く。何時になるか分からないけど」

 真琴君にそう言うと、電話の向こうからと、目の前から「『えっ?』」と聞こえてきた。

『でも! もしかしたらかすり傷かも知れないし、わざわざ来てもらうなんて!』
「それならそれで安心できるでしょ? だから行くよ。また連絡するから」
『……ありがとうございます、睦月さん。咲月を……お願いします」
「任せて。真琴君はお父さんとお母さんに付いててあげて」

 努めて冷静を装ってそう言うと、真琴君から『はい。じゃあ……』と返ってきて電話は切れた。

「さっちゃん。と言うことだから、明日できるだけ早い飛行機探すよ」

 ようやくそこで上げたその顔は、涙に濡れている。

「お父さん……大丈夫かな……」

 震えながら声を絞り出したその顔を見て、俺は胸が痛んだ。嫌でも、遠い昔弟に同じことを尋ねられたときを思い出してしまう。

『お母さん、大丈夫だよね?』
『大丈夫だよ。きっと』

 けれど母は家に帰ることはなかった。まだ幼かった弟には『兄ちゃんの嘘つき!』と泣き叫ばれた。
 だから、安易に大丈夫だとは言えない。今言えるのは、

「お父さんを信じよう……」

 それだけだった。
 それに涙を零しながらも、さっちゃんはゆっくり頷いた。

「さっちゃん。こんな時間だけど、かんちゃん預かってもらうあてある?」

 しばらく黙ってさっちゃんの背中を摩って、少し落ち着いたのを見計らってそう尋ねる。
 連れて行けないわけじゃないけど、そうなると今度はかんちゃんの身が心配だ。

「……いつものところに連絡とってみる」
「うん。俺は飛行機の手配するから」

 さっちゃんをベッドの縁に座らして、頭をそっと撫でる。

「じゃあ、お願いね? 俺はリビングに戻るから、落ち着いたらおいで」
「……うん」

 さっちゃんは渡したスマホを握りしめて、そう小さく答えた。
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