年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 もしかしたら振り解かれるかも知れなかったけど、一か八かでその小さな手を取ったこと。

「行こっか」

 そう言うと、さっちゃんは顔を赤くしたまま小さく頷く。

 ごめんね。試すようなことして

 心の中で謝って、隣を歩くさっちゃんを眺める。
 俺からは、俯いて歩く彼女の頭しか見えない。けど、握った手には少しだけ力が入る。
 さっちゃんが俺の事をどう思っているのか分からないけど、でも、今はこうやって一緒に過ごせることが、とても嬉しかった。

 しばらく歩くと、また違うエリアに到着した。今度はアラビアの世界。さすがに俺も知ってるアニメ映画の世界だ。

「ここです」

 連れてこられた建物の前に表示されている時間は、5分。

「楽しみ」

 そう言いながら中に入って行く。
 このアトラクションを元にした絵が飾られている通路を辿ると、すぐに乗り場に到着した。
 なんとなく予想はできたけど、水の上を乗り物がゆっくり進む感じのアトラクションのようだ。

 一番前に案内されて、そのまま乗り込む。
 どうしたって手を離さないと乗れないわけで、俺は仕方なく手を離した。
さっきまでお互いの体温で温まった手の温もりが、急速に冷めて行くのがなんだか寂しい。
 でも、さすがに何度も同じ手でこんな事出来ないよなぁ……と、乗り込んで座る嬉々とした表情のさっちゃんを見て思った。
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