年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 もしかしたら、お父さんにもここまで感じた事はないかも知れない。
 だから、さっき不意に手を引かれた時、凄く驚いたけど嫌じゃなかった。睦月さんは単に子供の手を引くような気持ちだったんだろうけど。

「……ちゃん。さっちゃん? どうかした?」

 考えながらぼんやり歩いていたからか睦月さんが呼びかける声が届いていなかった。
 ハッとし顔を上げると、睦月さんは心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「あっ……なんでもないです。すみません……」

 表情を出さないままそう答えると、睦月さんはまだ少し心配そうな顔を見せている。

「何か食べに行く? そういえばお昼もまだだし」

 今日の仕事はお昼過ぎに終わり、そのままここに直行した。
 1人だったら途中のチェーン店のコーヒーショップで軽く何か食べてくるのだけど、さすがに睦月さんをそれに付き合わすわけにもいかず、そのままここに来たのだ。

「はい。何か食べたいものありますか? お米がいいとか、麺がいいとか。言ってもらえたらそこに向かいます」

 しばらく「んー……」と考えて、睦月さんは口を開く。

「さっちゃんが行ったこと無い店があればそこがいいな」

 そう言って、子供のような明るい笑顔で睦月さんは私に言った。
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