年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「睦月さんの撮る香緒ちゃん、本当に楽しそうですよね」

 ぼんやりと考え事をしていた俺に、さっちゃんが不意に言う。

「え? そう?」

 ちょっと驚いてさっちゃんを見ると、さっちゃんも少し驚いたようにこっちを見ていた。

「……希海さんが撮るのは、作られたものです。一番美しく見えるように皆で作った香緒ちゃん。元々そう言うコンセプトでやってきているので。でも、睦月さんの撮るものは、本来の香緒ちゃん。私が見てても自然なのが良く分かります」

 確かに、希海は小さい頃から司を間近で見ていた。だから、その美しさの基準も似ていると思う。撮りかたは似てなくても、モデルの美しさを際立たせる腕は似ている。

 でも、そんな撮りかたは逆立ちしたって俺には出来ないし、俺はどちらかと言うとその人を身近に感じて欲しいと思いながら撮っている。だから、さっちゃんはそう思ってくれたのかも知れない。

「私……睦月さんの写真、好きです。とっても温かくて素敵だと思います」

 例え世界中から称賛されても、こんなに嬉しいとは思えないかも知れない。
 たった一人、目の前のこの子にそう言われただけで、泣きそうになるほど嬉しいなんて、さっちゃんは自覚してる?

 そんなことを噛み締めながら、俺は「ありがと」と笑いかけた。
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