Hold Me Tight
 店主はなんでもないような様子で、ウランガラスにブラックライトを当てた。ブラックライトを当てることで緑色が強い蛍光色に発光し、幻想的な色を放っていた。

「わぁ、きれい…」

「でしょ?」と言う店主の眼鏡の奥の目が合ってドキリとした。無邪気で優しい目をしているなと思った。

「そもそも和ガラスっていうのはね、明治時代に西欧から近代ガラスの製造技術が入ってきて、その技術を日本独自にアレンジしたものなのね。特にウランガラスは大正から昭和初期にかけて、ウランの使用が禁止されるまでの短い期間に作られた貴重なものなんだよ」

 ブラックライトでほのかに照らされる店主は、少年のように目を輝かせて楽しげに笑っている。よっぽど骨董が好きなのだろう。

「それはますます魅力的ですね。これ、いただけますか?」

「ほいきた!お買い上げありがとうございます。包んであげるね」

 店主は電気をつけタンブラーグラスをレジへ持って行き、緩衝材と包装紙を取り出してグラスを包んだ。その所作が丁寧で美しい…と思った。まるでグラスを慈しむかのような、愛でるような、丁寧な手つきだ。商品ひとつひとつを大事に扱っているのがよく分かる。いや、自分のコレクションを惜しみながら手放すときの儀式的な何かのようにも見える。

「どうしたの?」

「あ、いえ…」

 店主は視線を私に向けながら少し首を傾げて微笑み、また視線をグラスに戻した。そんな所作にまでドキリとする。
 私、見惚れてた?

「はい、お会計ね」

 改めて値段を見て驚いた。そりゃそうか。貴重な品物だもの。財布を開き、お金を数えて青ざめた。小銭が足りないのだ。

「あのぅ、すいません。手持ちが少し足りないので、また今度でもいいですか?」

「いくら足りないの?」

「あと、さん、びゃく、えん、ほど…」

「あーいいよ300円くらい。お値引きしちゃう」

「えー悪いですよ。ちゃんと払いますから」

「いいのいいの。趣味で骨董屋やってるみたいなもんだから」

 店主はニッと笑って一重の小さな目を細めた。

「ありがとうございます…」

支払いをして店主からグラスを受け取った。
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