親友を泣かした私は。
朝起きて窓を開けると、暖かい風とともに桜の花びらが舞っていた。なんて綺麗なんだろう。ぼーっとしていると部屋の扉が開いた。「美波。何してるの?早くしないと遅刻しちゃうよ。」お母さんが笑顔で言った。「はーい」と私はベットから起き上がった。
制服に着替える。鏡に映る自分はいつもと違くて違和感があった。
白雪美波は今日から中学2年生だ。新学期になると色々な人は不安や希望など様々な思いがあるだろう。クラスに馴染めるのか、仲の良い子と同じクラスになれるのか、先生は誰なのか。その中でも私は何も感じることはなかった。だだ朝起きて始めに頭に浮かんだのは音瀬桜ちゃんの顔だった。



学校に着くと私の親友の桜ちゃんがいた。彼女とは小学生の時から仲が良かった。
「美波ちゃん。おはよう!」彼女は元気いっぱいの笑顔で私に手を振る。
「桜ちゃん。おはよう!」私も笑顔が自然と生まれた。
「クラス何組だろう。同じクラスがいいな。」
桜ちゃんはつぶやいた。
私も同じクラスがいいと思っていた。桜ちゃんが同じことを思っていたと思うととても嬉しかった。
クラス表を見る。「音瀬桜。発見!!」桜は5組だった。私の名前は――――。5組。
「あ!桜ちゃんと同じクラスだった!嬉しい。」
今日一番のいい事だとおもった。朝起きた時に不安がなかったのは桜ちゃんと同じクラスになれると薄々感じていたからなのかもしれない。
しかしこの時の私には同じクラスにあの人がいることを私は知らなかった。知りたくなかった。




黒板に書いてある決まった席に座る。桜ちゃんは苗字があ行だから窓側の席だった。私はさ行。真ん中らへんの列だ。準備を速く終わらせ桜ちゃんの席に向かう。

「同じクラスで本当に良かった。2年生は行事がたくさんあるんだよ。鎌倉班別自主行動とか体育祭とか合唱祭とか。美波ちゃんと楽しい思い出たくさん作りたいな。」

桜ちゃんはとても楽しそうだ。私もとても楽しかった。桜ちゃんと同じクラスになれたこと、桜ちゃんに楽しい思い出を作ろうと言われたこと、桜ちゃんが楽しそうに話していること、すべてがキラキラ輝いていて見えた。
私も「一緒に楽しい思い出作ろうね」と笑顔で答えた。
朝のホームルームが始まった。担任の先生は女性のの先生の鈴木先生だった。とても優しく生徒思いだと評判だった先生だからとても安心した。

「鈴木りさと言います。剣道部の顧問をしています。担当教科は数学です。よろしくお願いします。」
と自己紹介をしていた。鈴木先生が連絡事項を伝えホームルームが終了した。





帰りのホームルームを終え、帰ろうとしていると桜ちゃんが自分の机に来た。
「美波ちゃん。一緒に帰ろう。」と誘ってくれたのだ。私はまた嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「うん。帰ろう。」と言い桜ちゃんと一緒に教室を出た。
桜ちゃんと帰る時間は私にとって貴重な時間だった。桜ちゃんは剣道部で私は帰宅部。帰る時間が毎回合わないのだ。前に一回私が
「部活が終わるまで桜ちゃんのこと待ってるよ。」
と言ったことがあった。だけど
「部活終了の時間毎回違うし美波ちゃんに待ってもらうの申し訳ないから」
と言われた。私が逆の立場だったら同じことを言うと思った。だから登校する時は毎日一緒に行って、帰りは別々で帰ると決まったのだ。

一緒に帰っているときに色々な話をした。
鈴木先生が担任で良かった。けど桜ちゃんは顧問の先生だから普段の生活を見られてちょっと嫌だな。とか。
同じクラスの男の子ですごいカッコイイ人がいた。明日話かけてみよう。女の子も綺麗な子、優しそうな子、色々な人がいた。仲良くなれるかな。とか。
桜ちゃんは今部活で頑張っている。私は剣道やったことないからルールとか知らないけど桜ちゃんの話を聞いていると楽しそうだと思った。部活何か入れば良かったなと少し後悔した。桜ちゃんは3年生が引退し自分が先輩になったら剣道部の部長になりたいと教えてくれた。桜ちゃんならきっといい部活にできると私は思った。とか。
ふたりとも学校から家まで30分くらいかかる。ひとりのときは30分て長いなと思うけど、桜ちゃんが一緒だとあっという間に終わってしまう。
始めに桜ちゃんの家についた。桜ちゃんは「また明日」と笑顔で言った。私も「また明日」と言って歩きだした。





今日の朝はひとりだ。桜ちゃんは今日から朝練だと言っていた。私はこの長い道をひとりで黙々と歩いた。
教室に入り自分の席に座る。準備を終わらせ周りを見渡す。同じクラスで桜ちゃん以外で楽しくおしゃべりするような友達はいなかった。同じクラスになったことのある人は数人いた。けど親しい仲ではなかった。だからこの、新しいクラスで友達を作るのがひとつの目標だった。

前の席のおとなしそうな子。長い髪はとても綺麗で彼女を初めて見たとき美しい人だなと思った。佐々木あおいさん。名前まで綺麗だ。彼女は読書をしていた。私は思い切って声をかけることに決めた。

「おはよう。佐々木さん。その本読んだことある。とっても面白いよね。」
彼女は突然話しかけられて驚いたのかびくっと肩をふるわせてこちらをふりむいた。

「おはよう。白雪さん読書とかよくするの?」
「うん。読書大好き」
「私も読書好きなんだ。一緒だね。」
「うん。読書中に話しかけちゃってごめんね」
「全然。クラスの子にどうやって話しかければいい
かずっと考えてたから。話しかけてくれて嬉しい」
「そうだったんだ。私も佐々木さんとおしゃべりできて嬉しい。」

彼女の初対面の印象は綺麗な人だったけど話すと笑顔が可愛い人だなと思った。

「あのさ、白雪さん。もしよかったら下の名前、美波ちゃんって呼んでもいいかな?」

彼女は照れたように私の目を見て言った。

「もちろん。私もあおいちゃんって呼ぶね」

と伝えるとあおいちゃんは嬉しそうに笑った。

あおいちゃんと話していると朝練が終わった桜ちゃんが教室に入ってきた。桜ちゃんはクラスの中心人物のひとりだから色々な人に「おはよう」と言われていた。そんな桜ちゃんはすごいなと思っていると桜ちゃんと目があった。

「美波ちゃん。おはよう。朝練めっちゃキツかったよ~」
と朝練だったのに元気だなと思いながらも

「桜ちゃん。おはよう。朝練お疲れ様。」
と言った。
桜ちゃんは前の席のあおいちゃんに気づいたらしく

「佐々木さん。おはよう。同じクラスこれからもよろしくね。」

と初対面にもかかわらず元気に挨拶していた。

「音瀬さん。おはよう。よろしくね。」
とあおいちゃんは嬉しそうにしていた。桜ちゃんってすごいなとまた思った。
しばらく話しているとホームルームのチャイムがなるのに気がついた。桜ちゃんは自分の机に戻って行った。




今日の時間割はこうだ。
1時間目、自己紹介
2時間目、係決め
3時間目、委員会決め
今日は3時間で帰れる。桜ちゃんは部活だから一緒に帰れないけど速く家に帰れるのは少し嬉しかった。

1時間目
自己紹介。クラスの仲を深めるためまずはお互いのことを知ることが大切だと先生が言っていた。自己紹介は出席番号順に言ってくことになった。まずは出席番号1番の安藤くんから。サッカー部に入っていて、好きな教科は体育と美術、嫌いな教科は体育と美術以外と言っていた。とても明るい人だなと思った。自己紹介はどんどん進んでいき桜ちゃんの番になった。

「こんにちは。音瀬桜です。剣道部に所属しています。将来の夢は警察官です。みなさん仲良くしてください。」

と笑顔で言っていた。
警察官―――。たしか小学生の時から言ってたな。警察官のお父さんに憧れてるからだった気がする。
自己紹介は順調に進み次はあおいちゃんの番。

「こんにちは。佐々木あおいです。趣味は読書とお菓子作りです。よろしくお願いします。」

お菓子作り好きなんだとぼーっと考えていると、鈴木先生が言った。

「白雪さん。大丈夫ですか?つぎは白雪さんですよ。」
と言われた。
「はい。すみません。」と鈴木先生に伝える。やばい。急に恥ずかしくなってきた。教壇に立った。

「こんにちは。白雪美波です。趣味は読書で帰宅部です。よろしくおねがいしまぇあさす」

ヤバい、ヤバい―――。途中まで順調だったのに!最後の最後で噛んじゃった。恥ずかしい。どうしよう。誰も触れないで。いや、むしろいじってくれた方がいいかとひとりで考えていると、「ふふふっ」と笑い声が聞こえた。笑い声の主はクラスの中心人物のひとり青木竜二くんだった。

「よろしくおねがいしまぇあさす」
と私の真似をしてきた。そのおかげでクラスのみんなは笑い、楽しい空気になったので良かった。
最後のひとりは。

「渡辺レオ。よろしくお願いします。」

短い自己紹介。どこかで聞いた事のある声。
え――――。渡辺レオ。なんで。同じクラスだったの。桜ちゃんも驚いたような顔をしていた。その時私は過去の記憶が鮮明によみがえった。




―小学4年生の時。
私はその時から桜ちゃんと一緒に学校に行っていた。クラスは違かったけど仲が良かった。朝、普段通り教室に入ると教室の黒板にこう書いてあった。

『私、白雪美波は佐藤ひろの事が好きです。ひろくんに近づく女子は消えろ。』

私は頭が真っ白になった。たしかにひろくんのことは好きだった。けどどうして。誰がこんなことしたの。混乱していると、渡辺レオのことが頭に浮かんだ。前に桜ちゃんとふたりで好きな人の話をしているときにレオくんに聞かれてしまったのだ。彼は私に
「ひろが好きなんだ。みんなに言っちゃおう。」
と言っていたのだ。その時どうしてかわからないが涙目で耳が赤かった。

その黒板はみんなが見ていた。みんな私のことを見てヒソヒソ話をしていた。今まで友達だと思っていた人がその一言で簡単に裏切ったのだ。

ひろくんは女子からすごく人気があった。顔もかっこよくて性格も良かったから王子様のような存在だった。ファンクラブもあるようなすごい人だった。だから私は告白しようなんて考えたことは一度もない。クラスメイトという関係でも十分幸せだったから。

私はみんなに言った。
「これを書いたのは私じゃない。」
けど信じてくれるひとは誰もいなかった。
担任の先生も信じてくれなかった。黒板に落書きしてはいけないと怒られた。

その日レオくんは学校を休んでいた。どうしてこんなことをしたのか聞きたかったのに。

そこから地獄の日々が始まった。
全員から無視された。私が授業で発表したときに全員でおしゃべりしだした。このくらいならまだ耐えられた。
次の日には体操服、リコーダー、上履き、ランドセルなど自分の物がゴミ箱に捨てられていた。
次の日は上履きの中に画鋲がたくさん入っていた。次の日は朝に黒板、机、ノートに『ブス』『死ね』『学校に来るな』『男好き』などひどい悪口がたくさん書かれていた。私の心はボロボロだった。

レオくんは一週間ほど学校を休んでいた。

桜ちゃんとも毎朝一緒に学校に行かなくなった。ボロボロの自分を見て欲しくないから。桜ちゃんならいじめられてることにすぐ気づくと思っていたから。

けど桜ちゃんも薄々気がついていたらしい。私がいじめられていることを。私が学校が嫌で休んだ日に桜ちゃんが私のクラスの人全員にいじめのことを怒鳴りに言ってくれたらしい。そして机に書いた犯人はレオくんだと桜ちゃんも思ったらしい。桜ちゃんは小学生の時からみんなに人気だったけどその件を境に友達が減ってしまったらしい。けど桜ちゃんの友達を辞めなかった人も多かったらしく桜ちゃんがいじめられることはなかった。その事に少しほっとした。

桜ちゃんがお見舞いに来てくれた。その時に彼女はこう言った。

「私はいつでも美波ちゃんの味方だから。もしこの世の人みんな美波ちゃんが嫌いになっても私は美波ちゃんのこと大好きだから」

私は泣いた。桜ちゃんに抱きついて声が枯れるまで泣いた。

「私も桜ちゃんのこと大好き。ずっと一緒にいて」

と泣きながら言ったら、桜ちゃんは笑顔で

「ずっと一緒。約束。」

と言ってくれた。あの時の桜ちゃんの笑顔で救われた。

次の日桜ちゃんと一緒に学校を休んだ。お母さんもお父さんも学校を休むことに賛成してくれて助かった。
そこからけじめをつけて学校に行った。レオくんは
インフルエンザになったらしく1週間ほど学校を休んでいた。レオくんとは口もきかず目も合わせなかった。嫌いになったというより、またあんなことをされると思うと怖かった。しかしレオくんが来てからいじめられることは少なくなった。みんな私をいじめることに飽きたのだろう。

そんな嫌な過去を思い出していると、教壇に立っているレオくんと目が合ってしまった。もういじめられるのは嫌だ。怖い。
私はすぐに目をそらした。




2・3時間目
レオくんが同じクラスだと思うと落ち着いていられない。これからの学校生活大丈夫かな。そんな不安に襲われる。けど、私には味方がいる。桜ちゃん。桜ちゃんがいればどんなものも怖くない。桜ちゃんは私が動揺しているのがわかったのか何度もチラチラこちらを見れば口パクで「大丈夫?」と言ってくれている。桜ちゃんは優しいな。私は桜ちゃんが少しでも安心できるように笑顔でピースサインをした。

そんなことを思っていると鈴木先生が言う。

「なかなかクラスの学級委員が決まりません。あと5分以内に立候補者が出なければくじ引きで決めます。」

私は学級委員になるのは嫌いではない。ここで立候補しても全然良い。ただ私の中の一番の要注意人物、レオくんも小学生のときによく学級委員をやっていたのだ。だからもし彼と一緒に学級委員をやるという危険性を考えると、立候補するという行為は絶対できないのだ。



―5分後

「立候補者が誰も出ませんでした。なので今から先生のパソコンでくじをします。不正行為などは絶対にしないので安心してください。ではスタートします。」

誰になるんだろう。心臓がバクバクしている。

「まずは女子の学級委員から発表します。」
教室にある謎の緊張感。

「女子の学級委員は――。白雪美波さんです」
はぁ。ここでくじ運使いたくなかったな。

「次に男子の学級委員を発表します。」
なんか嫌な予感がする。神様、お願いします。

「男子の学級委員は――。渡辺レオさんです」
やっぱり。もう。今日は本当についてない。

「では白雪さん、渡辺さんよろしくお願いします。みなさん拍手。」

拍手とかいらないよ。本当についてない。
不意にため息がもれる。
これからの学校生活大丈夫かな。今までにない不安が私を襲ってくる。
私は鈴木先生の期待あふれる笑顔を今日は素敵だと思えなかった。
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