FOOLという名のBAR
第三章 same place as you

 私がこの街に流れて来てどのくらいの時間がすぎたのだろうか。中途半端に途切れてしまっていた想いがソルジャーの登場でようやく幕が下りた。
 柊がソルジャーに託した譜面を受け取り、柊の想いを探すようにピアノの上を私の指が走る。いや、心が走るのか?

 カウベルが鳴った。
 ユウコが買い出しから帰って来たようだ。

♪ ♪ ♪

「その曲もマリアのピアノの中で変わったね。マリアの技術で洗練された分けではなく、なんだろうね、日差しのような感覚・・・」
「まるで渇きのような柊の想いを少しでも満たしてあげられたらいい、そんな気持ちでこの曲を弾いているの。でもママがそういうのなら変えられたのかしら」
「そうさ、お前にこの曲が届いて、ようやく柊の心も癒されたのだろう、あたしはそう思うよ」
「same place as you・・・あなたと同じ場所・・・この曲に名前をつけたの」

 ユウコは微笑んで頷いた。そしてカウンターに材料を並べた。ジン、PASSOA,フレッシュライムジュースをミキシング・グラスに入れてステア。カクテルグラスに注がれたカクテルを私のピアノに運んでくれた。

「なんか、照れてしまいそうな爽やかなピンク色のカクテルを私に?」

 ユウコは何も言わず、カクテルを置くと、そっと微笑んでカウンターの中に戻った。
 私は黙ってカクテルを口に含む。
「あぁ・・・」
 私の指はピアノの上を走る。
 カクテルは私が好きなクラシック・ギムレットの味の中に仄かな日差しのような甘さがふわっと漂うような感じがした。

♪ same place as you

 柊の心と同じ場所に、この曲を弾くことで辿りつけるような気がする。

「マリアのピアノは愚か者達の心を映す。たまにはお前の心を映したっていいんだよ」
 カクテルを口に含むとユウコのそんなセリフが聞こえた気がした。

 ユウコのカクテルに魅了されて私のピアノは走った。

♪ same place as you

 ここは、FOOLという名のBAR
 愚か者が静かに酔い潰れるための店


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