お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「デロスは、一夫一婦制の国です。幾ら王女の務めだからとは言え、父上の後宮にアイリーンを嫁がせるのは、酷すぎます。きっと、デロスも何色を示すでしょう」
 言いながら、アイリーンが素直に承諾する姿がカルヴァドスの脳裏に浮かんだ。
「親デロス派と反パレマキリア派が手を組み、陸軍を展開するだけでなく、さらに海軍を展開してパレマキリアがデロスにしているように港湾の入り口に海軍を展開して船の入港を妨げ、陸軍はパレマキリアがデロスにしたように、一気に国境線から攻めあげることが朝議で決まった。情報では、国王夫妻はエクソシア寄りの王都、キルリアの王城にいるが、ダリウス王子はデロス近くの田舎の城に滞在しているらしい」
 さすが、エクソシアの諜報機関の有能さだなとカルヴァドスは思った。
「そこでだ。皇太子カルヴァン。お前はパレマキリアをどうしたい? お前の愛する姫に懸想する、女好きのバカ王子共々だ。王族を皆殺しにして平定するか、それとも、デロスから手を引かせるだけでいいのか?」
 アイリーンに無理矢理口付けし、民を兄を父を殺すと脅したダリウス王子の事を考えると、皆殺しにしてやりたい思いがカルヴァドスの中で蠢いた。
 かつてのカルヴァドスなら、デロスに危害を加える可能性があるダリウスを生かしておくことに反対しただろうが、カルヴァドスは父が自分を試していると感じた。
「とりあえず、王都の近くまで攻め込み、デロス周辺にいる兵を即日引き上げさせ、脅して取り付けたアイリーンとの婚約を解消させます。それから、デロスに対してパレマキリアがかけている二〇〇%の関税の撤廃を承諾させ、パレマキリアには属国となるか、このまま隣国として節度ある態度を見せるかを選ばせます。どちらにしても、王族に手は出しません」
「ほお、それだけでよいのか?」
「はい。それ以上のことをアイリーンは望みませんから」
 カルヴァドスの返事に、皇帝はしばらく考えてから口を開いた。
「良かろう。ならば、陸軍の全権は全て皇太子カルヴァン、そなたに任せる。そして、そなたが私を納得させるだけの手柄をあげることが出来たら、姫との結婚も考えてやろう」
「本当ですか?」
「ああ、但し、余程のことでもなければ、姫を譲るつもりはないからな」
「姫の心が父上の、陛下のものにならなくても、体さえ自由にできればいいと、父上はそうお考えなのですか?」
 思わず、カルヴァドスの口を尋ねるつもりのなかった問いがついて出た。
「心など、女としての喜びを知れば、自ずとついて来るものだ」
「そうは思いません。アイリは、彼女は、そんな女性ではありません。だから、例え妻にしたとしても、彼女の心までは私からは奪えません」
 カルヴァドスが言うと、皇帝はつまらなさそうにカルヴァドスの事を見つめた。
「無駄口を叩いている暇があるなら、とっとと出征の支度をしろ」
「やり残したことがございます故、一旦、国を離れますが、直ぐに戻り、パレマキリア侵攻の指揮をとらせていただきます」
 カルヴァドスは言うと、深々と頭を下げた。
「母に、皇后に挨拶していくが良い」
「かしこまりました」
 カルヴァドスは答えると、急いで皇宮を後にした。

☆☆☆

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