BITCH
プロローグ
深夜と呼ぶには、まだ早い時間。
数回鳴ったのちに途切れる、発信音。
こちらが何かを言う前に、スマホのスピーカーから聞こえてくるのは、「どうしようもねえ奴」とも「しょうがねえな」とも取れる感じの溜息。
そして。
「……彼氏に、振られた……」
『ご愁傷様』
あたしが涙ながらに訴えると、慣れ親しんだ言葉と共に、少し笑ったような、男特有の低い声が聞こえてくる。
「どこがいい?」
次の言葉を言おうとしたあたしに、かけられる言葉。
当たり前のように紡がれる言葉が、とっても心に沁みるから。