君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく



 ついさっきまでの騒動。
 それが、まるで噓のように。
 今はシンと静まり返っている。

 その中で聞こえてくるのは。
 風で揺られる緑の葉たちが触れ合っている音。
 そしてスズメが鳴いている声。


 その音、その声を。
 呆然と立ち尽くしたまま聞き流している。

 ある後悔を抱きながら。


 さっき。
 ジュースを買いに行ったとき。

 彩珠(あじゅ)は『私も一緒に行く』と言っていた。

 あのとき彩珠と一緒にジュースを買いに行っていれば。
 彩珠は親父さんに連れて行かれることはなかったのではないか。

 そう思うと後悔ばかりが頭の中で激しく暴れ出す。



『心が呼吸できる世界』でのルームメイト全員の連絡先は知らない。

 だから彩珠に連絡しようと思っても連絡することができない。


 彩珠に会いたい。
 彩珠と話がしたい。

 だけど。
 その手段が見つからない。

 一体どうすれば……。



「……ひとまず帰らなければ」


 公園(ここ)で考えていても何か良い方法が思いつくわけではない。

 いったん家に帰って冷静になってから考えることにしよう。


 そう思い、家へ向かって歩き出した。


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