君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく

みんなの話




 そして神倉さんは話を始めた。



 それは神倉さんが初めて『心が呼吸できる世界』に来た前日のこと。


 その日、神倉さんはあるクラスメートの財布を盗んだと疑われてしまった。

 原因は神倉さんの席の机の中にそのクラスメートの財布が入っていたから。

 神倉さんは何度も『違う』と言ったけれど、担任の先生もクラスメートたちも信じてくれない。

 それどころか、クラス内から小声で『このクラスの中で盗む(やる)のは神倉くらいしかいないだろ』とか『神倉さんは盗み(やり)そうだもんね』など、心無い言葉がちらほら聞こえてきた。


 盗み(やり)そうって、どういうこと?
 見た目がということだろうか?
 ヤンキーっぽい(こんな)感じだから?

 そうだとすれば酷いと思った。
 見た目で勝手にイメージを決められ。
 盗んで(やって)いないのに犯人扱いされている。

 もう、嫌だ。
 こんな担任や、こんなクラスメートたち(奴ら)と学校生活を共にしたくない。
 一緒にいたら気が狂いそうになる。


 精神的に崩壊寸前になってしまった神倉さんは、その翌日から学校を休むようになった。

 学校を休んだ初日。
 神倉さんは『心が呼吸できる世界』に繋がる真っ白な光の出入り口を見た。
 そして『心が呼吸できる世界』(ここ)に来るようになって一週間になる。



 神倉さんは話を終え「私の話はこんなところだな」と言った。

 そのときの辛い出来事を話していたからか、苦痛な表情をしている。


 そんな神倉さんのブレスレットは。
 やっぱり真っ赤な色をしている。



 神倉さんの話を聞き終え。
 私たち四人が共通して言った言葉。

 それは。
「人を見た目で決めつけてはいけない」


 神倉さんが見た目だけで盗んだ(やった)と決めつけられた。
 そのことに私たち四人は神倉さんと同じように心を痛めた。

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