君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく



「あの、
 次は僕が話してもいいかな」


 佐穂さんの次に話を始めたのは鈴森くん。



 それは鈴森くんが初めて『心が呼吸できる世界』に来た前日のこと。


 その日、鈴森くんは限界になってしまった。

 その原因は。
 鈴森くんと一緒に行動しているクラスメートの男子三人が鈴森くんのことをカモにしているから。


 男子三人は鈴森くんに『ジュース代、貸して』と言って借りることがあり、それは一度や二度ではない。

 しかも男子三人は一度も鈴森くんにジュース代を返していない。

 そのことを鈴森くんは男子三人に言うことができない。

 それを言ったら男子三人は鈴森くんから離れていってしまうのではないか。
 そう思うと言い出すことができない。


 なぜ、そこまでされているのに男子三人に何も言うことができないのか。
 それは中学校のトラウマがあるから。

 中学一年生の頃、鈴森くんはイジメにあっていた。
 それは辛くて苦しい。
 そのときに孤独というのは恐ろしいと思った。


 だから高校生になった今。
 たとえ男子三人からカモにされていても。
 孤独ではないから我慢するしかない。

 自分が我慢をすれば孤独にならなくてすむ。
 そう思おうと必死に耐えた。


 だけど。
 その気持ちにも限界は訪れる。

 鈴森くんはこう思い始めた。
 なんで僕ばかりに『ジュース代、貸して』と言うのだろう。
 一緒にいる三人はお互いそんなことを言わなくても仲良くしている。
 だけど僕はジュース代を貸さなければ一緒にいてくれない。
 それは、あまりにも理不尽過ぎるのではないだろうか。

 だけど、悲しいことにその思いを一緒にいる三人に言うことができない。
 そんな勇気、出すことができない。


 こうして思い悩んでいるうちに限界になり。
 とうとう学校を休むようになってしまった。


 学校を休んだ初日。
 鈴森くんは『心が呼吸できる世界』に繋がる真っ白な光の出入り口を見た。
 そして『心が呼吸できる世界』(ここ)に来るようになって三週間になる。



 鈴森くんは話を終え「僕の話は以上です」と言った。

 そのときの辛い出来事を話していたからか、苦痛な表情をしている。


 そんな鈴森くんのブレスレットは。
 やっぱり真っ赤な色をしている。



 鈴森くんの話を聞き終え。
 私たち四人が共通して言った言葉。

 それは。
「何回も借りて一度も返さないのは、
 初めから返す気がないのではないだろうか。
 そんな奴とは友達になる必要はない」


 鈴森くんがカモにされ続けていたこと。
 そのことに私たち四人は鈴森くんと同じように心を痛めた。


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