エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
第一章 お見合いは突然に
第一章お見合いは突然に  
 
「こっちに戻ってきたら、遊びに行かせてね。じゃあね」 

和合珠希は名残惜しい気持ちで病室を後にした。
引き戸の扉が閉まる直前、赤ちゃんのかわいい泣き声が耳に届き、傍らの西沢志紀と顔を見合わせ目を細める。
今日は三日前に出産を終えた同僚の優美に会いに大宮病院を訪れ、生まれたばかりの赤ちゃんと和やかな時間を過ごした。
優美は退院後すぐに地方にある実家に戻って体調を整える予定で、それまでに一度赤ちゃんの顔を見に来ないかと連絡があったのだ。

「新生児ってあんなに小さいんだね。私の周りにいないからびっくりした」

同じく同僚の志紀の感慨深い声に、珠希は大きくうなずいた。

「寝顔しか見られなかったけど、それでもかわいいとしか思えないなんてすごいよね。私もそろそろ結婚したいけど、現実を考えるとなかなか、だよね。社会人三年目だからお金もないし」

エレベーターを待ちながら、志紀は苦笑する。
長く付き合っている恋人との間で結婚の話が出ているらしいが、なかなか踏み切れないようだ。

「志紀は相手がいるだけまだいいよ。私なんて相手がいないからそんな悩みを持つ以前の話だもん。羨ましいくらい」

珠希は背中の中ほどまで伸ばした長いストレートの黒髪を揺らし、小さく笑う。
まつげで縁取られた大きな目が小顔に映え、優しい印象だ。
どちらかといえば童顔で二十五歳という年齢よりも若く見える。

「相手がいないどころか恋愛経験ゼロだもん。優美みたいに同い年の知り合いに赤ちゃんが生まれたって聞くと、なんだかそわそわする」

中学校から大学まで女子校で過ごしたせいか男性との接点が少なく、職場は講師の多くが女性という音楽教室だ。
これまで合コンなどにも消極的で学生時代はバイトも未経験となれば、恋愛経験ゼロというのは当然かもしれない。

「志紀が結婚したら、それこそ本気で焦ると思う」
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