媚薬

事故


4年前のあの日、雨が降っていた。
私は仕事を終えたその足で海斗さんのいる淡路島のホテルへ向かっていた。彼の誕生日を祝うサプライズパーティーに参加するためだった。

仕事の仲間、内輪だけの集まりだからと木下さんに言われたんだ。誰にも内緒で彼を驚かせる予定だと説明されていた。

そしてホテルの入り口で彼と彼女が抱き合っている現場を見た。彼にしなだれかかる彼女の腰を海斗さんは支えていた。恋人同士が抱き合うように見えたその様子に驚き戸惑った。

何をしているのか、とそこで怒鳴り込んでも事を荒立てるだけだと思った。
以前から二人の関係を怪しいと思っていた。寝室にあった見覚えのないピアス。誰かが洗ったであろうキッチンの食器。使われたバスタオル。
彼のプライベートなスマホに連絡すると勝手に出る彼女。
仕事が忙しく泊りで家を空けることが多い彼。

海斗さんを愛しているがゆえに信じたい気持ちと懐疑心が交互にやってきて心を乱す。

雨で路面が濡れていた。前方を走るトラックがスピードを出して車線変更した瞬間それは起こった。あっという間に夏の乗った軽自動車は横風にあおられたトラックの下敷きになったのだ。


もうこのまま死んでしまってもいい。彼がいない人生なんて考えらない。いっそ出会わなければよかった。最後に考えたのは海斗さんの事だった。











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