媚薬

責任感




彼はシャワーを浴びているようだった。吐いてしまって体が汚れたのかもしれない。
罪悪感にさいなまれる。
全てあの媚薬のせいだと思うと申し訳無さが込み上げてくる。弁解の余地がない。

たまに服を汚してしまうお客さんがいるので、簡単な気替えを店で用意している。

まだお客さんはシャワー中だ、夏は急いでまた店に戻り男性用の下着とシャツを探した。

シャツはあったが下着が見当たらない。
仕方ない、店から出ると向かいの通りのコンビニまで走る。
5分で着く距離にコンビニがあるので着替えの服を探す時間より買った方が早いだろう。

息を切らせ部屋に戻ってドアを開けると、彼はバスタオルを巻いてベッドの淵に腰かけていた。

「良かったです。気分は良くなりましたか?」

そう問いかけながら買ってきた下着を手渡そうとした時……夏は彼が『媚薬の取扱説明書』を手に持っている事に気がついた。

夏は一瞬で体が凍り付いた。

「……おかしいと思ったんだ。普通ならあんな酒量で酔ったりしない」

彼は恐ろしくゆっくりと低い声で夏に問いかける。
右手には空になった媚薬の瓶。

「いったい、こんな薬どこで手に入れたんだ?……」

彼の目が怒りに燃えている。

夏は返す言葉もなく、その場で土下座した。

「申し訳ありませんでした!」

夏は涙目で必死に謝った。


「……なに?俺とやりたかったの?」

「いや、え?やりたかったとかではないです」

男じゃないんだし、やりたいとか……やりたくないとか、そういう問題なんだろうか。

「なに目的なのか……全く理解に苦しむ」

彼は目を瞑って首を左右に振った。



夏はお客さんから頂いた媚薬が間違ってカクテルに入ってしまった事を説明した。
そして平伏。

「見ろよ、これ、風呂場で何回抜いたと思ってんの?……また勃ってきたし」

バスタオルで隠されてはいるが形は明らかだ。

「短小改善、ペニス増大って書いてあるが、俺には全く必要ない」

怒りの持っていき場を失った男性客は、深いため息をつきまたもやバスルームへ向かった。

「お手伝いします!」

申し訳無さから、夏は申し出たのだった。


「お役に立てるものがあると思います!」

夏は川端ボックスを男性の前に置いた。

中には今までもらったアダルトグッズがパンパンに入っている。
勿論どれも未開封だ。

「全部新品ですのでよろしければ」

逆に使用後の物をすすめられたら驚くぞ。とぶつぶつ言いながら彼は箱の中を見た。

「まるでプロみたいだな……」

プロとはそういうサービスを提供する女性の事だろう。
違いますと首を振るが、彼は大人のおもちゃを興味深そうに吟味していて夏の方には目を向けない。

少しでもそういった道具が彼の役に立てばいいのだが。とにかく彼の性衝動を何とか納めなければという使命感が沸き起こる。

「こういうのはあまり使ったことがないから俺もよくわからない」

そう言うと彼はベッドに横になり

「じゃあ頼むわ」

と言った。
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