思い思われ嵌め嵌まり
そして翌日。少し進展があった。
いつもの横断歩道の向こう側にいる彼が景子に気付き、じっとこちらを見てしばらく目を合わせたままでいた。距離はあるが、景子は視力がいいので間違いない。
恥ずかしさから景子のほうが目を逸らした。
信号が青に変わり歩き始める。いい頃合いを見て彼に目を遣ると視線が絡まり、また会釈を交わす。

景子は胸を弾ませて店に戻った。

「広ちゃん! 何か今日はちょっといい感じだった……と思う」

何となくそんな感じがしたのだ。少なくとも、自分に対して悪い印象は持っていないように思えた。

「そっか。良かったじゃん。何か……廊下で好きな人とすれ違った中学生みたいだけどね」

からかうように、広美が軽く笑った。
人見知りのわりに、彼氏がいない時期が殆どないのは、やはり広美が言った、内面から溢れだす何かのせいなのだろうか。
数は多くはないが、それなりにいい恋愛はしてきた、と景子は思う。結婚を意識した相手もいた。けれど、一目惚れは今回が初めてだった。

マネキンにジャケットを着せていると、景子はふと気付いた。

――明日休みじゃん。

折角少し進展したところだったのに、と残念で仕方がなかった。
仕事は休みだが、彼に会えないわけではない。明日いつもの時間にあの場所へ行ってみようか、と考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。

――クールな女はそんなことしないか。

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