冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

3.


 キッチンの照明が煌々と凛子の作業する手元を照らしている。使い慣れたキッチン。小さい頃からずっと変わらず母と二人で一緒に暮らしている小さなアパートの一室。隣の大きな豪邸にはもう優は住んでいない。優は大学入学と同時に実家を出て一人暮らしを始めてしまったのだ。長期休みは必ず帰ってきて凛子の相手をしてくれたが、やっぱりそれだけでは凛子は足りなかった。


「会社での優ちゃんもかっこよかったなぁ。やっぱり同じ会社に就職できてよかった」


 凛子は満足げに口元を上げ、カチャカチャと卵をかき混ぜる。今日のお弁当のおかずの一品だ。


「あら、凛子早いのね。お弁当作ってるの?」


 凛子の母親が寝起きにもかかわらず、ニヤニヤと頬を緩めている。母親も凛子同様背が低くて、童顔だ。ショートヘアーの母親とはよく姉妹と間違えられるほど。


 母親が何が言いたいのかは凛子には分かっていた。なので先手を打つ。


「優ちゃんの分も作ってるの。もう少しで終わるから、朝ごはんちょっと待っててもらてもいい?」


 よく熱したフライパンに溶き卵を流しながら、凛子は母親を見る。


 優は甘い甘い卵焼きが好きだ。


「本当、優ちゃん追いかけて同じ会社に就職するなんて、自分の娘ながらその執念に拍手だわ。早くその拗れた片想いを実らせなさい!」
「執念って言わないの! 一途って言ってよ!」


 凛子は頬を膨らませながらも菜箸でくるくると卵を巻いていく。母親は「はいはい」と流しながら洗面所へと消えていった。

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