冷酷・楠木副社長。妻にだけは敵わない
「ちづちゃーん!
千鶴ー?」
玄関で待ちくたびれている、朱李。

パタパタとスリッパの音をさせ、千鶴が玄関に来る。
「ごめんね!なかなか、セットが決まらなくて…!」
「十分可愛いよ?」

「でも、朱李くんと一緒に歩くんだからそれなりにしないと!」
「だから!そんな背伸びしなくていいんだよ?」

「うーん。
でも、全然負担なんかじゃないんだよ!
ほんとだよ?
それよりも、なんか少しだけど自分に自信が持てるの!」

自分を見上げて微笑む千鶴に、朱李は更に心が奪われていく。

「参ったな…」
「え?朱李く━━━━━━」
朱李は千鶴の手を引き、抱き締めた。

「ちづちゃん…千鶴…千鶴……大好きだよ……!
(ほんと、千鶴には敵わないな…)」

「うん…私も、大好き…!」
千鶴も、朱李にしがみつく。
しばらく二人は、抱き締め合うのだった。


それから、二人が住んでいるマンションの地下の駐車場へ向かう。
車に乗り込み、発進する。

千鶴は、隣で運転する朱李の横顔を見るのが好きだ。
ひたすらジッと見つめ、赤信号になると頬を突っついたり、軽くつまんだりしてちょっかいをかける。

普段の朱李なら、その瞬間…車から強制的に降ろす。
まぁそもそも、そんな人間を車に乗せないが。

しかし千鶴なら、何をされても何も言えず許してしまう。


「フフ…こら!ちづちゃん!」
「フフ…楽しい~」

「あ、ほら!青になったから!」
「はーい」


神社につき、降りる。
「人、多いねー」
「だな。さすがに元旦だもんなぁー
ちづちゃん、ほら!手!」
朱李が手を差し出すと、ギュッと握り腕にしがみつく千鶴。

「朱李くんの手、温かい!」
「ちづちゃんは、冷たい…
さぁ、とりあえず並ぼう。まずは、詣らないと!」

元旦で、人が犇めき合っていて詣るだけでも長い行列に並んでいる。
二人は、最後尾に並んだ。

「ちづちゃん、またおみくじする?」
「今年は、やめとく」
「ん?どうして?」
「去年…末吉だったし……今年、凶だったら嫌だし」

「うーん。
もしそうなっても、気にすることないんだよ?」

「え?」
「要は、一生懸命生きること。
ちづちゃんは、毎日一生懸命でしょ?」

「うん。まぁ、そうだけど…」
「ちづちゃんって正直不器用で、頼りないとこあるけど……
俺は、ちづちゃんには敵わないんだ。
まぁ、惚れてるからってのもあるけど……
ちづちゃんは、いつも一生懸命だろ?
そして何をするにも、絶対に手を抜かない。
俺が仕事から帰って、ちづちゃんの笑顔を見るだけで癒されるんだ!
家事だってそう。
失敗することあっても、必死に頑張ってるのちゃんとわかってるし。
俺につり合う為にって、必死に背伸びして頑張ってるとこも!
そんなちづちゃんが大好きだし、尊敬してるんだ!
ちづちゃんが一生懸命頑張ってること、俺も含めて見てる人はちゃんと見てる!
だから万が一“凶”でも、きっと悪いことにはならないと思う」

「朱李くん…ありがとう!スッゴく嬉しい!」
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