【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

二人旅


 ***

 それでも、旅はものすごく楽しかった。
 領地から王都に向かうときは、誰かに見つかってはいけないと身を隠していたし、領地の危機と婚約破棄のせいで気分も落ち込んでいた。

「――――あれは?」
「あれは、この地方独自の染料を取るために、花びらだけをむしって干しているんだ」
「あれは?」
「あれは、先ほどの花から取り出した染料で色をつけた布を干しているのだろう」
「さっきの花と、色が違いますね」
「ああ、花は赤いが、取りだした染料は紫色をしている。……リティリア嬢の瞳の色に似ているな。反物を買っていこう」

 そう言って騎士団長様が連れていってくださったのは、先ほどの花で染めた布がたくさん置いてあるお店だった。
 鮮やかな色ほど高級らしいけれど、騎士団長様が選んでくださったのは、私の瞳と同じ淡い紫色の布だった。

「最高級品を贈りたいが、この色の方がきっと似合うから」
「うれしいです……」
「布は最高級の品だ。あとで、ドレスに仕立ててもらおう」
「……ドレス、ですか」
「ああ。どちらにしても、社交は避けられない。それならば、誰よりも美しく着飾って、俺の隣に並んでくれないか」
「私なんかが……」

 後ろ向きな言葉に、騎士団長様はどこか余裕を感じる笑みをみせて、私の肩をそっと引き寄せた。
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