【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

領地と魔法


「あっ! 領地の山が見えてきました!!」
「……ふむ、たしかに見たことがあるな。名前はあるのか?」

 そこにあるのは、低くてきちんとした名前なんてついていない山だ。
 でも、領地の子どもたちは、こう呼んでいた。

「どんぐり山です!!」
「ははっ。可愛らしいなだな。子リスが出てきそうだ。子どもの頃、遊んだのか?」
「はい! 意外とおてんばだったので」
「……可愛かっただろうな」
「ふふ。子どもの頃の騎士団長様も、きっと可愛かったと思います」

 きっと、子ども時代の騎士団長様は、天使のように可愛らしかった違いない。
 そんなことを思って、私はとても幸せだったけれど、騎士団長様からは、憂いを感じる。

「可愛いと言われたことは、一度もないな」
「え?」

 私は小首をかしげる。
 浮かぶのは、カフェフローラで、どこかソワソワした姿、クマのぬいぐるみを差し出す困り顔、幸せそうにクッキーを食べた時の笑顔……。

 間違いなく、騎士団長様は可愛らしい。
 もちろん、頼りになるし、少し強面で、かっこいいという言葉のほうが似合うのは事実だけれど。

「鬼騎士団長なんて、呼ばれてしまっている今でさえ、ときどきものすごく可愛いのに?」
「……一度、君の目で世界を見てみたいものだ。きっと美しく、可愛いものしかないに違いない」

 まるで、その中に自分がいないとでも、言いたいみたいに感じてしまう。

「もう少しで、我が家に着くのですが、少しだけお散歩しませんか」
「散歩?」
「はい。可愛かったであろう、騎士団長様の子ども時代をやり直します!!」
「……そういえば、剣の訓練と教育を受けてばかりで、里山で遊んだという経験はないな。野営をした経験くらいしか」
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