【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
 
「うん、美味い」

 そう言って、すこし緩んだ口元を見ているうちに、私の頬が熱を帯びていく。
 笑った顔が、想定外にかわいすぎて、どうしていいか分からなくなる。

「よかったです……」
「ごちそうさま。……リティリア嬢」

 普段の厳しい表情、どう見てもこの店には不釣り合いな長身と鍛え抜かれた体。
 けれど、いつだって所作も、食後の挨拶も、美しい。そして、時折見せる柔らかな笑顔。

 しかしながら、このお方は、泣く子も黙る王国の鬼騎士団長、アーサー・ヴィランド様なのだ。

「えっ、騎士団長様に、な、名前……呼ばれた!?」

 去って行く背中は、あっという間に街中に消えていった。
 どうして、どう考えても、鬼騎士団長様と呼ばれるようなお方には似合わないこの店に、毎朝コーヒーを飲むために現れるのか、それはおそらく王国の謎の一つだろう。

「……たしかに、うちの店のコーヒーは、とってもおいしいけれど」

 お客様がひとときいなくなった店内。
 早朝から働いていた私は、騎士団長様が好んで頼むコーヒーに、蜂蜜とミルクを入れて、少しの休憩を楽しんだのだった。
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