こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした
第8章 眠れない夜
SNSの炎上から数日が経った。

明莉はカフェに立つたび、誰かの視線を感じるようになっていた。

スマホを向けられることも増えた。
 ひそひそ声も、聞こえないふりをするのが限界に近かった。

——ここは、私の居場所じゃないのかな。

そんな思いが、胸の奥で静かに膨らんでいく。

ある日、若い女性客がレジに来た。

明莉が「いらっしゃいませ」と言うと、その女性はあからさまに笑った。

「本物だ。ねえ、写真撮っていい?」

「……申し訳ありません。店内での撮影は——」

「なに? 仕事がないからこんなところにいるんでしょ。
 落ちぶれた女優のくせに、偉そう」

その言葉は、刃物のように胸に刺さった。

呼吸が一瞬止まる。
 足元がふらつく。

美咲がすぐに間に入り、女性を外へ出した。

「お客様、従業員への迷惑行為は控えていただけますか」

「私は何もしてないのに。こんな店、SNSで上げてやるわ」

その女性は啖呵を切って出ていった。

扉が閉まった瞬間、店内に静寂が落ちた。

明莉の胸の奥で、何かがきしむように痛んだ。

(……まただ。
 私は……どこに行っても……)

喉の奥が熱くなり、視界が滲む。

でも、泣くわけにはいかなかった。

ここで泣いたら、“弱い自分”に戻ってしまう気がした。

明莉は、震える指先を隠すように、エプロンの端を握りしめた。
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